折原家2
□色とりどりの
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<色とりどりの>
5月中旬 新宿 某マンション
#愛子視点
「今日は風が強そうだねぇ。おまけに雨も降ってる……子供達、濡れないといいんだけど」
『そうだねー、誰かさんみたいに風邪引いて、しかもぶり返して寝込むなんて事になったら大変だもんねー』
「……馬鹿にしてるよね、俺の事」
『してませーん!……来月にはもう梅雨の季節に入るんだから1年なんてあっという間だね』
お昼の時間帯。
私と旦那は簡単な昼食を食べながら同じように窓を見れば、厚い雲に覆われ、窓を濡らし、ガタガタと揺れる荒れた天気があって―――
心配そうに呟くので冗談っぽく5月に入ってからの事を思い出しながら言葉を吐き出せば、苦い顔をした後、水を飲み干し、
話題を変えるように呟く私に[それだけ充実してたって事じゃない]と笑った。
『そういうものなのかなぁ……まあ子供達と一緒に過ごしてるとあっという間に時間が過ぎちゃうからね』
「そうだね。あの子達は嵐みたいに騒ぎ出して、満足すると静かになるんだから観察のし甲斐があるってものだよねぇ」
『……それって私は観察してても楽しくないって事?』
「誰もそんな事言ってないけど。あの子達はあの子達の面白さがあるってだけで、君には君の面白さがあって毎日見てて飽きないよ」
『……。ちょっとだけ聞いてもいい?』
「?」
少しだけ気になっていた事。
物思いに耽る程考えた事はないし、他の話題を話されたら忘れてしまう程の些細な事なのだが、
折角こうやって話す機会があるので聞いておこうと箸を止め、真剣な顔で旦那―――折原臨也に問いかけた。
『……私ってどこら辺が面白い?臨也の興味が引かれる所とかあるなら教えて欲しいんだけどっ』
「!……ぷっ、あはははははははっ!君、そんな事を考えていたのかい?……ふふっ、いやあ、これだから人間観察は止められないんだよ」
『どこに笑う要素があった!?真剣にって程じゃないけど……気になってたんだよ!?』
何を彼は見ているのか、それが知りたかった。
私は臨也の目にはなれないし、彼にもなれないのでどんなものを見て、どう感じ、笑っているのか―――
それが解らないので教えて欲しかったのだが、ケラケラと楽しそうに笑い、何が何だか良く解らない。
「ふふっ、悪かったよ。……そうだな、君は突拍子もない事とか、考えなくてもいい事とか……まあ色々俺の考えている君、っていう人間の予想を超えてくるから面白いよ。
大体の考えてる事は俺の許容範囲だし、人間らしいとは思ってるけど……今回の質問なんて自分の面白さに気付いていないなんて思わなくてさ……思わず笑っちゃったよ」
『自分の面白さに気付いてる人間なんてそんなにいないと思うけどっ!』
「そういうのじゃないよ。……何て言えばいいのかな、君って結構大人しそうなイメージがあるだろう?
だけど実際喋ってみると案外よく喋るし、俺の事を馬鹿にするし、あの化け物とも対等に話す事ができる。
それに肝が据わってる部分もあるし、変な所で怖がるところもあって……人間にしたら長い時間かもしれないけど、地球や宇宙からしてみたらほんの一瞬だ。
その一瞬の間で君は様々なものに影響された。俺はあまり良く思ってないものから、いい方向まで、本当に色々とね。でもそれって凄い事だと思わない?
確かに君は特殊な過去を持ってて、他の人間とは違って出会った頃はあまり喋らなかったし、紀田君達ですら信用していなかったのに、今じゃ冗談すら言える人間になったんだ!
俺の操り人形のようだった君がっ、文句を言ったり、怒ったり、主人に刃向うような態度をするようにもなった!たった一瞬の出来事で、こんなにも人は変われるんだよ!」
長々と語る臨也。
興奮しているのか声を高らかに、箸を天井に突き上げている姿は何だか間抜けだが、本人は何でもいいらしい。