折原家2
□ゴールデンウィーク
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「明日、いーきーたーいー!」
「明日いこー、ねー?」
「……調べてみるけど、座れなくても文句言わないって約束できるかい?」
「できるっ!」
「やくそくするっ!」
「……全く。我儘な子供に育ったものだよ」
「貴方がきちんとしないからよ。父親って言う自覚があるのかしら」
「酷いなぁ。これまでにだって何度も父親らしい事をしてきたと思ってるよ?……まあ、甘いのは否定しないけどね」
「……冗談よ。二つなら席が確保できたわ。後は自分達でどうにかしなさい」
『波江さん……っ』
駄々を捏ねる子供達についに臨也が折れたのか、いつもの席に座り、パソコンの画面を見つめつつ、
キーを叩いている中で波江さんもいつの間にか調べていたようであっという間に予約してくれて―――流石情報屋の秘書をやっているだけの事はある。
喋りながらでもきっちりと仕事をこなしてくれる波江さんに感動していると
臨也は[そこは俺の出番なんじゃないの?]と不服そうにしながらも子供達に準備するように言えば、慌てて2階へと上っていった。
「それにしても忙しいわね、貴方。ゴールデンウィークに入った途端に風邪を引いて、治ったかと思えば温泉に行って……ぶり返さないように気を付けなさい」
「君が俺の心配をするなんて珍しいじゃないか。……あ、お土産ならきちんと買ってくるから心配しなくてもいいよ。
俺ならまだしも、愛子や子供達が君に買っていかない、っていう選択肢を選ぶとは思えないし」
「私はいつからお土産の心配をするような人間になったのかしら。
……貴方が寝込んでいる間にどれだけ仕事が溜まってたと思ってるのよ。その優待券だって貴方だけじゃ貰えなかったかもしれないのよ?」
「悪かったよ。君が居てくれるから俺は無理せず休めるんだから感謝してるんだよ、これでもさ」
「そういう言葉は貴方の大切な愛子に言いなさい。一番迷惑なのは彼女なんだから」
『え、別に……。慣れたって言うか、何て言うか……』
二人が準備をしている間、2人共その場から動く事はせず、波江さんはパソコンの画面を見ながら、臨也もやる事がなくなって暇なのか、
人間観察をするように窓を見つめながら波江さんの呆れるような言葉に返事を返し、言葉では何だかいい雰囲気だが、
実際にはとても淡々としており、この二人の間に[浮気]とか[愛]の単語は存在していないのだろう。
―――変な関係……。
「貴方は慣れたそうよ。そのうち違う男でも連れてくるんじゃないかしら」
「なっ、俺と彼女は慣れとかそういうものじゃないと思ってるんだけど……そう思ってるのは俺だけなの?」
『え、ちょっと待って。何の話をしてるのっ!?』
最初のうちはどうして欲しいのか、何が欲しいのか、これだけの熱があって大丈夫なのか、病院とか彼の友人である岸谷さんに連絡しなくていいのだろうか、など
色々と困る事も多く戸惑っていた部分もあったのだが、少しずつ彼が欲しがるもの、やって欲しい事など分かるようになり、看病にも慣れたので大体の事なら迷惑だとは思わない、
という意味だったのだが、何故か波江さんは楽しそうに笑い、臨也はちょっとだけ焦った表情をするので訳が分からなくなったのだが、
[仕方ないわよね、女ですもの]と何かを悟った表情の波江さんに更に混乱する私。
「ずっと同じ男じゃ嫌になるわよね。しかもこんなウザい臨也と1日中一緒じゃ嫌になっても仕方ないわよ」
『波江さんっ!?』
「仕方ないって酷くないかな。俺ってそんな妥協するような人間なの?」
「そうじゃない、褒める所と言えば顔とお金、それだけじゃない?そんな男じゃ、女はいつか飽きるものよ」
「そういうものなのかな」
『飽きてないからねっ!?臨也も納得しないでっ』
波江さんの目的は解らないが、[女にしかわからない事]を話し続ける彼女に臨也も納得し始め、
大きな声を荒げると[あら、そうなの?]と知っているのに意外そうな顔をしてこちらを見る波江さん。