折原家2
□ゴールデンウィーク
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臨也は波江さんに渡されたものを見て、苦笑しているような、これで子供達の機嫌が直ると期待しているような表情をした後、
二人を呼んで自分の隣に座らせると手に持っている縦長の紙を見せて感情の変化を観察するように見ていたが、何が書いてあるのか解らないようで首を傾げ、[これなーにー?]と問いかけた。
「お前達が行きたがってた所の特別優待券だよ。……しかも最高級ホテル宿泊券、なんて太っ腹な事をしてくれるよねぇ、あの人もさ」
「そうかしら。貴方に恩を売っておけば、次に利用する時に有利になるとでも考えたんじゃないの?ああいう人間が考えそうな事なんて大体同じよ」
「ま、そのおかげで俺は子供達を温泉に連れて行く事ができるんだから、少しぐらいは有益な情報を優先的に渡してもいいかな」
「子供達基準で物事を決めないでほしいわね」
「おんせんっ、おんせん入れるのっ!?」
「ホテルっ!すっごくおっきーーーいところなんでしょー!?」
ペラペラ、と全く大切にしていないかのように乱雑に左右に振りつつ、取引していたであろう人物の顔を思い出しているのか小さく口元を釣り上げ話をすれば、
波江さんも同じように思い出しているらしく、呆れながら呟き、子供達はそんな事は関係無い、とばかりに先程までの重苦しく、
泣き叫ぶかのような雰囲気は一瞬にして無くなり、温泉に行けると大喜びしている。分かりやすい変化に波江さんも驚いており、私と臨也は同じような顔で苦笑する。
「いつ行くのー!?明日っ!?明日!?」
「明日行こっ、明日!」
「慌てなくても今年の12月まで有効だから大丈夫だよ。……ああ、ここって色々な温泉が楽しめるって有名じゃないか。よくこんな所の優待券が手に入ったものだよね」
「さあ。私はあの人達の事情なんて毛ほども興味ないからどうでもいいわ。……それでいつ行くつもりなの?」
「あーしーたー!」
「ゴールデンウィークおわっちゃうよぉ!」
「パパのたんじょうび、もうすぐでしょー!」
『あ、そっか……。ならパパの誕生日に行くって行くのは?』
早く行きたくて仕方ないのか、父親の服を引っ張って準備をしようとする双子とそれを制止しながら優待券を見つつ、どういう所なのか確認する臨也。
波江さんは仕事具合が気になるのか、それともうるさい子供達を静かにさせる為に問いかけているのか淡々とした口調で問いかければ、
それに被せるように二人が[パパのたんじょうび]という単語を出すので、明後日はもう臨也の誕生日だという事に気が付いた。
一応準備はしてあるものの、プレゼントはいつ渡そうか、どういうシチュエーションで渡せばいいのか、色々考えていたのである意味好都合と言っても過言ではないかもしれない。
「俺の誕生日に?……それは構わないけど、子供達はいいのかい?何だか俺の誕生日を祝う為に行くみたいになってるけどさ」
「パパのたんじょうび、明日じゃないよー?……パパのたんじょうびまで、おんせん行けないの?」
「明日行きたい……」
「明日って言ったらもう準備しないと間に合わないよ?それに優待券はあっても、新幹線だって乗らなきゃいけないんだしさ」
『結構厳しいよね、それって……』
温泉に入る事はできるとしても、そこに行くまでの手段は自分達でどうにかしなければいけないのだが、テレビを見た限りでは明日行ってもかなり混んでいるだろう。
ゴールデンウィーク中はいつ行っても混んでいるとは思うのだが、明日行くのと4日に行くのとでは気持ちが違うとは思うのだが、二人は早く温泉に入りたいらしい。