折原家2
□ゴールデンウィーク
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気分だけでも、ゴールデンウィークを味わっておこうかと。
<ゴールデンウィーク>
新宿 某マンション
愛子視点
ゴールデンウィーク、それはたくさんの休みが貰える日。というより、たくさんの祝日が重なっている日、とも言えるのだがその休みを手に入れた人々は遠くに出掛けてみたり、
家族の所に帰省したりと楽しくとも大変な日々を過ごす事になるのだが、私達は全くそんな事はなく、とても退屈な日々を送っていた。
というのもお花見に行ったせいなのか、それとももっと別の要因があったのかは解らないが、
結局旦那はゴールデンウィークが始まったのと同時に風邪を引き、熱は下がったものの、大事を取って家の中で過ごしている。
「「…………」」
『そんなに怒った顔しないの。仕方ないでしょ、風邪引いちゃったんだから』
「だってぇ……おんせん行くはずだったんでしょー?」
「おんせん、行きたかったぁああ」
二人は彼が言った[温泉でも行こうか]という言葉を本気にしていたようで父親が風邪を引いたと解った瞬間、
物凄く不機嫌そうな表情で慌ただしい私を見ながら[おんせんー]と呟いており、その機嫌は今も直っていないようだ。
「……悪かったと思ってるよ。俺もまさか風邪を引くなんて思ってなかったからさ。この埋め合わせはきちんとするつもりだから期待しててよ」
「……本当にぃー?」
「パパ、いそがしいっておしごとするんじゃないのー?」
「しないよ。休みは貰ってるし、前半にパパ、頑張ったからね。そのご褒美で家族との時間を過ごせって言われてるから」
―――本当かなぁ……。
裏社会にゴールデンウィーク、なんて存在するのか良く解らないし、彼の言っている事が本当かどうかも分からないが時々携帯を触っているだけでいつも忙しそうに、
楽しそうに情報を集めたり、どこかに出掛ける、という事はしないのでそう言う事にしておこう、と残りのゴールデンウィークを楽しむ事にする。
「おんせんはー?」
「パパ、うそついたのー?」
「簡単に言ってくれるけどね、ゴールデンウィークってかなりの人が遠出するからどこもいっぱいなんだよ。掛け合ってるけど、良い返事がもらえなくてね、ちょっと難しそうなんだ」
「「えぇえええええ……」」
「やーだー……おんせん行くのぉ……!」
「おっきいおんせん、入りたかったのぉ……」
『そういう事言わないの。ほら、見て?テレビでも凄い人でしょ?』
彼の言っている事が本当なのか信じられないのか、泣きそうになりながら怒っており、可哀想だがこればかりはどうしようもできないのだ。
現実を突きつけるようにテレビを見せれば、新幹線の乗車率がかなり高く、
数十パーセントの人が立って乗らなければいけない、という現実を見せられ、やっと解ったのか、無言で私の服を握りしめている。
「……悪かったね、俺のせいでさ」
『パパは悪くないよ。……誰のせいでもないんだから』
例え彼―――折原臨也が風邪を引かなくても毎年のようにゴールデンウィークは存在しているのでこうなる事は誰にでも予想できた事だ。
確かに彼が期待させるような事を言ってしまったのも問題なのかもしれないが、彼はアテがあって言った言葉なので誰も責める事は出来ない。
「何なの、この重苦しい空気は。……今から誰かの葬式でもあるのかしら」
「波江さんか。……ちょっと色々あってね」
「そう。貴方に頼まれてた仕事、終わったわよ。それと相手がえらく貴方を気に入ったのかこれ、くれたわよ」
「……このタイミングで渡すなんて君、もしかして狙ってた?」
「何の事か知らないけど、捨てるなり使うなり貴方の好きにしなさい」
いつの間にか秘書である波江さんが玄関から入ってきており、私達を見て嫌そうな顔をしつつ、
臨也が説明しても特に興味ないのかスタスタとこちらへとやってきて彼に必要な物を渡すと同じようにスタスタとパソコンが置いてある椅子に腰かけた。