折原家2
□ヒラヒラ揺れる
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「すっごくきれいだったっ」
「きれいなお花見ながらおべんとう、ぜったいおいしいよっ」
「サクラきれいだったからお花見できるよ!」
「……そういう事を言ってるんじゃないんだけどなぁ。
君からも何か言ってあげて……って、子供達がこれだけ張り切ってるって事は君も一緒になってお花見したい、って思ってるんじゃないの?」
『……バレたか』
旦那はどうすれは子供達の意見を変える事ができるのか考えているようで、こちらを見つめ、助けを求めようとしたのだが、
私がいつもの如く子供達の味方をしているのは何となく解ったらしく、こちらがわざわざ言わなくてもどうしたいのか言葉にし、溜息を吐き出す。
『私もお花見したいでーすっ、温かい外で桜見ながらご飯食べたいでーすっ』
「したいでーすっ」
「食べたいでーすっ」
「…………」
開き直るように自分がやりたい事を口にすれば、子供達も私に合せるように父親に向かって言うが、彼はまだ[仕方ないから行こう]という表情ではない。
人がたくさん集まる所が好きなくせして、どうしてこんなにも嫌がるのか解らなくて―――とりあえず否定しておかないと気が済まないのだろうか。
―――いっぱいおにぎりだって作るのに……。
決まれば二人が食べきれない、というぐらいにおにぎりやおかずなどを作るつもりなのだが、彼が決めてくれなければ[家族でお花見]という事は達成できなくなってしまう。
『前だってお花見行ったじゃん……だから今年も行こうよー』
「行こうよーっ」
「いっぱいいーっぱい、サクラさいてるよ!」
「……俺にだって予定があるんだよ。前行けたからって恒例行事のように言ってもらっちゃ困るんだよねぇ。……まあいいさ。どこかで埋め合わせするから」
『……忙しい?』
「人間が変わればやり方も変わるからね。それに慣れるまでは忙しいかな」
私達の言葉に観念したのか、両手を挙げて自分の予定などを口にする相手―――折原臨也に先程、とりあえず否定しなければいけないのか、と思ってしまった自分が恥ずかしくなった。
4月、というのは入学式が多く、新しく働き始めた、という人間も少なくはないだろう。
裏社会にもそういうのがあるのか、それとも何かがあって辞めさせられたのかは解らないが、色々と大変らしい。
彼がどんな仕事を今しているのか良く解っていないし、どれだけ忙しいのかも分かっていないので簡単にああしたい、こうしたいと巻き込んで話をしてしまう。
『……そっか。残念……』
「お花見、行けないの……?」
「……行きたかった……」
忙しい彼を無理矢理連れて行くわけにはいかないし、無理をされても嫌なのでこの話はなかった事にしよう、と思い、まだ行きたそうな顔をする双子を説得しようとしたのだが―――
「誰が行かない、なんて言ったんだい?俺は一言も否定したつもりはないんだけどなぁ?」
と言い出し、目を丸くする。
確かに彼は私達が[お花見したい]と言ってから雰囲気では否定しているような感じがしたのだが、一度も[嫌だ]や[行きたくない]といった否定の言葉は聞いていない。
その言葉を聞いて子供達も[行けるかもしれない]と期待の目を向け、彼の続きの言葉を待っている。
「君達がそこまで言うのなら見せてもらおうかな。その、綺麗な桜っていうのをさ」
「っ、うん!おしゃしんとりたかったぐらいっ」
「とーとにも見せてあげたいっ」
『……このまま晴れてくれますように』
あれだけの桜が咲いていたのだ。
きっと他の所も満開に近い桜が咲いているだろうが、雨が降ってしまえば簡単に散ってしまうのでこのまま雨が降らずに過ぎてくれればいい。