折原家2
□ヒラヒラ揺れる
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<ヒラヒラ揺れる>
新宿 某所
愛子視点
「あったかいねー」
「これいらなーいっ」
『本当、上着いらなかったかもねー』
土日の昼間。
先に買い物などできるだけ済ませておこうという事になり、子供達と一緒に上着を羽織ってマンションから出てきたのだが、汗を掻く、
という程ではないものの綺麗な青空のおかげか、とても暖かく、冬に羽織っていた上着はいらないぐらいであった。
子供達は上着を暑苦しいと思ったのか、スーパーに着く頃には脱いでしまい、そのまま私に渡してきて、嬉しそうに[あったかーいっ]と走り回った。
自分で持ちなさい、と注意しようかと思ったが、久しぶりに晴れて気温が暖かくなってきて―――
子供達も寒さを感じずに走り回れる事が嬉しいようなので今日だけ我慢しよう、と二人に[転ばないようにね]と言ってゆっくりと周りを見渡せば、地面にタンポポが咲いていたりと春らしくなってきて―――
そりゃあ上着もいらなくなってくるよね、と口元を緩めながら走る二人の姿を見つめていた。
「ママっ、サクラ!」
「サクラさいてるよー!」
そろそろスーパーが見えてきた頃、子供達が何かを見つけたのか、早く見せたいとばかりに慌てて走ってきて、何事かと思っていると両腕を引っ張って[ついてきて]と言わんばかりだ。
頭の中にたくさんのクエッションマークを浮かべているとスーパーの近くの桜の木がとても綺麗に咲いていて―――
春らしくなったのはここも同じのようで、ちょっと前はまだ半分ぐらいしか咲いてなかったのにいつの間に満開に近いほどに咲いていたのだろうか。
『すっごく綺麗だねー!』
「うんっ、すっごくきれー!」
「サクラもあったかいから、おきちゃったのかなー」
『そうだと思うよ。やっと春が来たーって喜んでると思う』
人間は春夏秋冬、全て起きて行動しなければいけないが、動物や植物などには冬眠などがあり、暖かくなるのをじっと待ち続けている。そして今日、
やっと自分達が動ける時期になり、元気よく綺麗に咲き誇ったのだろう。
「はる、あったかいもんねー、ぼくはるすきー」
「あたしもー!」
『私も春、好きだよ。どこかにお出掛けしたくなっちゃうぐらい』
秋や春などはとても過ごしやすく、そして外に居ても苦にはならない季節であり、理由が無くても[温かいから]とどこかに出掛けたくなる。
私の言葉を聞いて思いついたのか、それとも考えていたのかは解らないが、[お花見っ]と元気よく言い、それに賛成するように[行こっ]と提案する子供達。
―――お花見かぁ、確かに行きたいかも……。
これぐらい咲いていればお花見には申し分ないと思うし、これぐらいの暖かさがあれば子供達も寒さを感じずにたくさん遊べるだろう。
だが、私達がこうやって行きたい、やりたいと思ってもなかなか旦那であり、子供達の父親は許可をくれずに終わってしまう事もあるので思いつきで言えないのが困りものだ。
それでも子供達は既にお花見に行く気満々なのか、[おべんとうつくろうねー]とやる気のある言葉が聞こえ、
どうやって父親に説明するんだろう、と心の中で溜息を吐き出しつつ、スーパーの中に入っていく。
―――――――……
数十分後 某マンション
愛子視点
「お花見っ」
「パパ、お花見いこっ!サクラ、すっごくきれいだった!」
「……帰ってきて早々何を言い出すかと思えば……。桜は綺麗だと思うけど、わざわざお花見する程かい?」
ドキドキしながら家の扉を開けた瞬間、何の捻りもない、子供達の純粋な要望にソファに座り、天気予報を見ていた旦那が呆れながらそう言った。