折原家2

□きーらーいー
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<きーらーいー>


3月中旬

愛子視点


「今日ね、アイちゃんがあそびに来るの!だからママ、あまいものかってー!」

「ぼくもっ!セイ君がね、あそびに来るって言ってたからあまいものかってー!」

『急すぎない……?お部屋も片付けてないし……甘い物買ってって言われても……パパにお金貰わないとママはお金持ってませんっ』

「おへやかたづけるのもてつだうしー、パパにもちゃんとお金ちょうだいって言うからぁ、ダメぇ?」

「とーとにおねがいしたらいいよって言ってくれるよ!だからいいー?」


お昼を食べ終わり、洗濯物が乾くまでまだ時間があるな、と時計を見ながら今後の予定について考えていると、

子供達が突然そんな事を言い出し、驚きの声を上げるが、二人は全く動じずに私がどうすれば肯定するのか解っているとばかりに甘えた声を出しつつ、

父親の方をチラ、と見るが、彼は知らん顔をして聞いてないフリをする。

そういう所は旦那の方が一枚上手のようで知らん顔をされた事に気付いた双子は慌てて父親に近付き、[パパぁ]と最終手段を取るが、無言で携帯を取りに行く為に立ちあがった。


―――今日は一段と機嫌が悪いな……。


旦那とて人間なのでいつも家の中でニコニコ笑っているわけではなく、[機嫌]という彼特有のものがあり、私はそれによって接し方を変えている。

今日みたいな日はあまり話しかけたりせずに機嫌が良くなるまで放っておくか、求められた時に対応できるようにしておくか、のどれかであり、

機嫌が良い日は面倒ながらも彼の人間愛についてや天敵への不満などを永遠と語っているのでそれを黙って聞いている。


今回は何故機嫌が悪いのか解らず、起きた時は特に変わった事はなく、いつも通り彼の特等席に座って好きな事をしているな、

と思って放置しておいたのだが、お昼頃には[醤油取って][箸ないけど?]としか喋らなくなった。

思い出せば、いつも話しかけてくるのに今日はそれがなく、どうしたのかな、と思いつつも、放置しておいたのが悪かったのか―――と溜息を吐き出しつつ、

とりあえず後で謝ろうと思っているのだが、子供達はそんな事情は知らないのでいつも通り[ねーねー]と服の裾を引っ張ってみたり、腕を掴んでみたりやりたい放題だ。


『お菓子ならあるんだし……甘い物じゃなくてもいいんじゃない?』

「えええええ……あまいものがよかったぁ」

「あまいものたーべーたーいー」


刺激しないように子供達にそう言うが、両親が自分達に甘い事を知っているので甘えれば欲しいものが手に入る、と学習し、

そして父親が折れれば母親は簡単だと思っているので更に甘えて[パパ、あまいもの食べたい]と言うが―――


「そう」


と冷たい言葉を吐き出して元の位置に戻り、携帯を弄り始め、子供達の声なんて聞こえていない素振りを見せる。


「パパ、おこってるの?あたし、わるいことしたー?」

「ぼくも、わるい子じゃないよ!とーと、どうしたの?」


そんな事が続いた数分。

いつもなら少しの変化を見せてくれる父親が全くと言っていい程、怒らず、笑わず、肯定も否定もせず、自分達の言葉にすら反応してくれないので何かを感じ取ったのか、

心配そうな顔をしながら二人の手を彼の額に当てて[おねつある?][かぜひいたの?]と顔色を窺っている。


『ええと、ね……パパちょっと疲れてるんだよっ、だから話したくないなぁ、って思っちゃってるんだよ、ね?』

「……一言もそんな事言った覚えないけど?」

『っ、だから!パパは黙ってて!』


肯定だけしてくれれば後は私がどうにかしておくつもりだったのだが、彼は僅かにいじけているのか口を挟んでくる為、話がややこしくなる、

と思いながらそう言うと[君はいつもそうだ]と相手をしてくれなかった事に対しての文句を漏らし始めた。
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