折原家2
□池袋散策
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私も池袋散策したいです。
<池袋散策>
新宿 某マンション
愛子視点
「♪」
『?』
今日の旦那はとても機嫌がいい。
理由は語らないので解らないが、こうやって鼻歌が聞こえるぐらいには機嫌がいいらしい。
いつもなら何かある度に[シズちゃんが][シズちゃんいつまで生きてるんだろうねぇ]と愚痴のように独り言を溢し、私が聞いている前提で話を進めていく事もある。
面倒だな、とは思うがこういう事も妻としての務めなのだろう、と思うようにして彼の話を聞いているのだが、
今日はそれが殆ど無く、もしかしたら天敵である静雄さんに何かあったのではないかと心配になった。
ここで携帯を触って彼に連絡を入れれば折角機嫌のいい旦那が一瞬にして機嫌が悪くなるのは長年の経験で解っているので、
何かあったのかな、と心の中で心配しつつ、買い物の時にでも連絡してみようと考えていると―――
「ねえ、デートに行こうよ、池袋にさ」
といつもなら言わないような単語を吐き出し、笑顔を絶やさないので本当に静雄さんに何かあって、それで旦那―――折原臨也の機嫌がいいのではないか、
と疑ったが、僅かに肩を竦め、[君が考えてるような事は一切ないよ、残念な事にね]と言う為、安心半分疑問半分になった。
「……君が考えてる事を当てようか。俺の機嫌がどうしていいのか、かな。答えを言おう。シズちゃんが今池袋にいないからだよ」
『え、何で?どこか旅行とか……遊びに行ってるとか?』
「アイツがそんな事をするような奴だと思うかい?……不幸な事があったらしくてね、葬式に行くんだってさ。
詳しい事は俺も知らないけど、家族で親戚の家に行くらしくてね、今日一日池袋に居ないようだよ」
『そんな事をするような奴、っていうのは置いといて……そっか、それなら良かった』
いくら臨也が[一切ないよ]と言っても、別の事が頭に浮かんでしまい、心配したのだが、親戚の家にお葬式の為に行く、
というどこにでもありそうな理由で池袋を離れているようなのである意味安心した。これが怪我で、とか病気で、とかなら慌てて携帯電話を取り出して電話をしていた所だ。
「だからさ、今しかないと思わない?君だって池袋行きたいだろう?」
『私は、別に……。臨也が許可してくれれば、いつでも遊びに行けるし……』
臨也が私の行動範囲を狭くするのでそれがなければ自由に池袋という街を歩く事ができるし、静雄さんに会っても世間話をする程度で、彼のように追いかけられたり、
逃げ回ったりする事はないのでのんびりできるのだが、相手は自分の気持ちを共有したいのか、[行きたいだろう?]と押し付けるようにもう一度言う為、
自分が行きたいだけじゃないか、と思いつつ、肯定すると[君ならそう言ってくれると思ったよ]と笑って準備を始めている。
―――まあ、初デート、って事で。
今年に入ってまだ二人っきりでデートをしていないので今年初のデート、という事になる。折角ならちょっとオシャレをして、初デートに行く女の子になってみたい。
そう思い、私は寝室へと向かっていき、タンスの中から福袋に入っていた服に袖を通し、これまた福袋に入っていたリップを取り出して唇に当てるように付ければ、完成だ。
―――似合ってる、かな?
―――臨也、喜んでくれるかな……。
前に見せた時も[似合ってるよ]と言ってくれたので服は問題ないとは思うのだが、リップは彼の前で付けた事がないので今回が初めてになる。
変だ、なんて臨也が言うとは思えないが、やっぱり心配で―――ドキドキしながら既にコートを羽織っている彼の方へと向かえば、こちらに気付いて僅かに驚いていた。