折原家2

□お年玉
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―――どっちがいいのかなぁ……。


中身が解る物、中身が解らない物、まだ三が日なのでギリギリ売っているとは思うのだが、人気の福袋は既に売り切れてしまっているだろう。

だからといってそこまで欲しい福袋があるわけでもないのでとりあえず、お店に行ってから決めようと立ち上がれば、

臨也がそれに気付いたようで[決まったの?]と問いかけてきたので大きく頷けば、小さく返事をした後、外出の許可を出してくれた。


「ママ、おでかけするのー?」

「あたしも行きたいっ」

『すぐ帰ってくるからパパと一緒にお留守番しててくれる?』

「ええええぇぇぇ……」

「パパとぉ……?」


人がたくさん住んでいる東京の、しかも新宿のお店に行くとなれば、きっと凄く込んでいるだろうし、もしかしたら並ばなければならないかもしれない。

それに大きくなったとはいえ、まだ小学生の子供達を連れて行くのはちょっと大変だ、というのが本音だ。

いくら二人が良い子にしていても、周りは何でこんなお店に小さい子供を連れてくるんだ、と思う人間だっているかもしれない。


―――世の中怖いからね……。


留守番するように言うと子供達は明らかに嫌そうな顔をして父親の顔を見るが、[一緒に行って怪我をしても知らないよ?]と言うと渋々ながらに了承してくれた。


『……ていうか、よくパパ許可してくれたね。私一人なんて嫌がりそうなのに……』

「本当は嫌だし、俺も一緒に行きたいんだけどちょっと急ぎの仕事が入ってね、そっちに時間を取られそうなんだよねぇ。

……それに君が何を買うつもりなのか興味があるからさ、楽しみに家で待つ事にするよ」

『そうなんだ……。うん、楽しみにしてて』


仕事を入れてくれた人、ありがとう、と心の中で感謝しつつ、準備をして最後にきちんとお金が入っている事を確認し、玄関に向かうと3人がそれぞれのタイミングでやってきて

[早くかえってきてね][遅くならないようにね]と寂しそうに言う為、まず子供達二人を抱きしめ、最後に臨也の背中に手を回すと―――


「こうやってると君と離れたくなくなるよ」


と耳元で呟く為、先程の感謝を取り消し、何で仕事が入ってしまったんだ―――と残念に思いながら彼から離れ、靴を履いて玄関の扉を開いた。


―――ちょっと新鮮かも……。


誰かと会うわけでもない、隣に子供達や臨也がいるわけでもない―――自由な買い物。

彼が何を思い、私にお年玉をくれたのかは解らないが、今こうやって一人で歩く事ができる楽しさを味わえるのはお年玉をくれたおかげだ。

無駄遣いはしないと思いつつも、自分の為の自分だけの買い物に、思わず目移りしてしまいそうだ。


たくさんの人混みの中を羽を伸ばすように歩きつつ、デパートへとやってくると更に人混みが多く、押し潰されそうになり、

ここに来た事を後悔しそうになったが、これも一つの経験だ、と自分に言い聞かせ、奥へと足を進ませた。エスカレーターに乗り、

上の方から見て行こうと思ったのだが、エスカレーターに乗るだけでも大変で、上の方の人が後ろに倒れてきたら、と思うと少し怖い。

何とか無事上までのぼって来たのだが、ぎゅうぎゅう詰め、というのはこの事か、とテレビで押し合いになっているのを思い出し、更に後悔する。


―――人、多すぎ……っ


臨也ならば大喜びしそうだが、私はそこまで人が好き、というわけでもないし、こんな人混みに紛れて喜ぶような人間でも無いので、

流れるようにしか動けないイライラに早くあの家に帰りたい、とまだ何も買ってもいないのに思い始めていた。
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