折原家2

□お年玉
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<お年玉>


新年 新宿 某マンション

愛子視点


『あけましておめでとう』

「「あけましておめでとー!」」

「あけましておめでとう。今年もよろしくね」


毎年のように年越しそばを食べ、テレビを付けて新しい年が来るのを今か今かと待ち望んでいると騒がしい音と共にテレビの中で

[あけましておめでとう]と先程までの緊張感など嘘のように一気に盛り上がる中―――

私達の家でも新しい年を迎えたので家族4人で挨拶し、それじゃあ明日に備えて寝よう、という事になる筈だったのだが―――


「今年からお前達にお年玉を渡そうと思うんだけど……どうかな。いらない、っていうならそれでいいんだけどさ。お前達もそろそろお金、というものに触れてもいい時期だと思うんだ」


旦那がそんな事を言い出しながら既に準備してあったポチ袋を2つ取り出し、そう言った。

子供達はどういう事なのか解らないらしく、首を傾げており、すぐに[ほしい]と言わない所がお金に触れる機会が少ない証拠なのかもしれない。


初めてのおつかいの時にお金を使いたい分だけ使った子供達はそれから少しずつこのぐらいのお金を持っていたらこのぐらいの物が買える、というのを学び、

レジでお金を払う時も[あたしがやるっ]と財布から表示されているお金を出すようになったが、自分達でお金を持ち、

欲しいものを自分達で買う、という事は殆どさせていなかったのでお年玉、という事で経験させるつもりのようだ。


『自分のお金、持ちたくない?』

「もつっ!」

「とーと、お年玉ちょーだいっ!」

「解ったよ。ほら、無駄遣いしたらそれでおしまいだからね。大事に使うんだよ?」


そう言って旦那―――折原臨也は持っていたポチ袋をそれぞれに渡すと嬉しそうに中に入った1000円札を見て、[1000円っ]と確認するように私に見せ、喜んでいる様だ。


「1000円あったらいっぱいおかしかえるねー」

「おかしもいいけど、おようふくもいいなぁ」


自分達で買いたい物、欲しい物を思い浮かべている様だが、こちらからしたら限られたもので何を買うのか―――というのが心配で、また昔のような事にならなければいいな、と思う。


「はい、君にもお年玉だよ」

『え、私にも……?あ、ありがとう……』


まさか妻である私にまでお年玉を用意しているとは思わず、貰う事に躊躇うが、彼は子供達とは違って、ずい、と押し付けるように渡してくるので受け取らずにはおられず、

とりあえず受け取って中身を確認すると子供達との額が倍ぐらい違っていて思わず突き返そうとした。


「いつものお礼だよ。それは正真正銘君のお金なんだから君が君の為に使うんだ。買い物のお金とか、子供達の為とか、俺の為に使っちゃダメだよ」

『そ、そんな事言われても……』


まさか彼に1万札を貰えるとは思わず、そしていつも子供達の為や臨也の為に使っていたお金を[自分の為に使え]と言われるとは思わず、どうしようかと困惑する。

子供達のようにあれも欲しい、これも欲しい、というものがなく、大体の物は臨也が用意してくれているし、

時々遊びに行く時にも彼にお金を貰っているので全く不自由な思いをした事が無いのだ。


―――何に使おう……。

―――……やっぱり貯金、かなぁ……。


「あ、言い忘れてたけど君の事だから貯金しようとか考えてると思うから、1週間以内に使わなかったらそのお金は返して貰うよ」

『え、えええええぇぇぇええ……』

「そうだろう?俺は君の為に使って、って言ったのに貯金なんてつまらない事をしようとしてる人間にお金なんて必要ないじゃないか。貯金なら俺でもできるからね」

「一週間……?」

「むずかしいよぉ……」

「お前達はいいよ。貯金でも、お菓子でも好きなように使ってくれて構わないから」

「よかったぁ……」


彼の発言に思わず大きな声を上げると子供達もその会話を聞いていたようで、

自分のポチ袋を見つめながら心配そうな声を出したが、子供達の今回の目的は[お金に触れさせる]という事なので関係ないようだ。
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