折原家2
□カッコイイ父親
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だが、今子供達が見ているのはパソコンの前に座って黙々とキーボードに手を置き、カタカタと文字を打つか、
時々資料を見ているのか確認したり、立ち上がって何かを探したり、子供達にとってはつまらないものばかりだ。
―――うーん……もっと何かないかなぁ……。
『ねえねえ、二人共。パパがすっごい所、見せてくれるって言ったら見たい?』
「!見たいっ」
「!見せて見せて―!」
「……は?凄い所?」
―――――――……
数十分後 池袋 繁華街
臨也視点
「……こういう事か」
突然子供達に仕事を見せて欲しいと言われ、気は乗らないが宿題の為なのでとりあえずデスクワークを見せていたのだが、
子供達の反応はいまいちで―――何を思ったのか愛子は[凄い所を見せる]と言い出し、
その後説明のように自分の足で情報を集めている俺の姿を見せれば、子供達も満足するのではないか、と言った。
あまり子供達に自分の仕事をしている姿を見せた事が無く、あったとしても椅子に座ってパソコンの画面を見ている父親、という認識しかなかっただろう。
ある意味いい機会なのかもしれないが、できるのなら一生見せたくはなかったので[見られている]と思うと思わず溜息が出てしまう。
―――適当に知ってる連中に話しかけておけば、満足するかな。
妻である愛子も知らないような―――それでも俺は知っている子飼いの人間に世間話程度に話しかけ、
遠くから見ても[優位に立っている]事を見せればカッコいいと思ってくれる、なんて思うが、それは自分の思考なので子供達がどういう基準でカッコいいと思ってくれるかは解らない。
―――父親の仕事を全て知った上で宿題にして欲しいよねぇ。
「やあ」
「いっ、臨也さん?今日はどうしたんですか?」
「どうした、ってわけじゃないんだけどね―――」
繁華街を歩けば、数人程度は歩いているのでその一人に話しかければ、驚いた顔をしつつ俺の話に耳を傾ける相手。
特に用事が無い時はお互いに話しかけたりはしないし、相手も結婚したり、子供が生まれた俺の事をどうとは思っていないだろう。
繋がるのはお金や弱み、といった人間の汚い部分だが、それで情報屋としてやっていけるのだから汚い部分、といって蓋をするのは勿体ない。
「参考になったよ、ありがとう」
「いえ、また何かあれば」
数分程度話をした後適当に切り上げ、相手から離れた後、3人が隠れているであろう方向を見れば子供達の興奮した顔と妻の満足そうな表情だった。
「とーとすごいっ」
「パパカッコいいっ」
「これでいいかい?……全く、シズちゃんが来るかもしれないんだから早くここから離れないと」
『ごめんね、パパ。ありがとう』
ゆっくりと顔を出し、パタパタと走って俺に近付いて行き、思い切り体当たりするように抱き着けば、
目がキラキラと輝くかのように[カッコイイ]と言い続けており、二人の中のいつもの父親は変更されただろう。
「折原……、……臨也っ!」
「だれー?」
「とーと、知り合い?」
『……っ、パパ……』
急いで帰ろうと子供達の手を引いて歩き出そうとした瞬間、怒りに震えるようなそんな声が聞こえ、振り返ればナイフを持った男が数十メートル先に見えた。
何事かと振り返った周りの人間達はナイフを見た瞬間、小さな悲鳴と共に走って逃げていき、ここが繁華街であった為ナイフの男が現れた事により、僅かなパニック状態が生まれた。
先程まで歩いていた筈が、何故突然走り出すのか解らない人間に、我先にと押しのける人間、それに巻き込まれ、こけてしまった人間、震えながらどうにか逃げようとする人間―――
俺が見た限りではそんな人間達の姿が見え、遠くから見る分では面白いのだが、その当事者であり、俺の近くには子供達や妻がいる。