折原家2
□夏にかけて
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「ママー?あつーい」
「さっきの方がよかったー」
『ごめんね、パパがちょっと寒いんだって』
「……いいよ。無理して、下げなくて……も」
しかし子供達はそんな温度が嫌なようで、戻して欲しい、というので私は臨也の方を見ながら謝ると彼は小さく息を吐き出し、立ち上がるとリモコンを操作して温度を下げている様だ。
見れば先程設定された温度になっており、もう一度戻そうとするのだが臨也は[いいから]と寒そうにしながら何かを取りに行った。
―――毛布とか、渡した方がいいのかな……。
既に片付けてしまっているので出すのは大変なのだが、寒そうにしているのならば毛布など体を温めるものを取りに行った方がいいと思い、動こうとした瞬間―――
「こんな温度差の激しい所に居たら子供達、風邪引くわよ」
いつの間に入って来たのか、出勤してきた波江さんが居て、手際よく温度を上げていく。
先程より温度が上がり、もう少し下げてもいいんじゃないかと思ったのだが、彼女は[身体に悪いだけよ]と言ってリモコンを渡してくれない。
「……あれ、波江さん。……ああ、もう、そんな時間か……」
厚手の羽織る物を持ってきた臨也はそれに袖を通しながら波江さんが来た事に僅かに驚いていたようだが、時計を見て納得したようだ。
「……貴方、何そのマスク。新手の嫌がらせかしら」
「……っ、悪いね、こんな状態でさ。仕事、には差し支えはないから……気にしなくていいよ」
そして波江さんも臨也に気付き、そして姿を見て、驚くと言うか嫌そうな顔をしながら問い掛ければ、小さく咳き込み、返事を返す。
「子供達より先にダウンするなんて、情報屋失格ね。……どうせ涼しい室内と暑い外の気温差にやられたんでしょうけど」
「酷い、なぁ。……風邪を引いてない、状態なら、抵抗の一つや二つ、するんだけど……少し、難しいかな」
「言ってなさい。……体調の方はどうなの、そんなのを羽織ってるぐらいだから熱はあるんでしょうけど」
波江さんは本当に臨也の母親みたいで―――色々と愚痴のように、文句のように言葉を吐き出しているにも関わらず、淡々と彼の体調についての情報を集めている。
そんな彼女に臨也も途切れ途切れになりながら、咳を挟みつつも自分の体調について言葉を吐き出す。
「熱は……どうかな。喉と頭が痛くてさ……少し鼻が、詰まってる感じもあるし、怠くてね。食欲も無くて、咳も……出るんだ」
「……典型的な夏風邪ね。お腹の方に行かなくて良かったわね」
「……っ、本当だよ。ただえさえ、喉がやられて声が出しにくい、って言うのに……」
吐き出される臨也の言葉にそんなに酷かったんだ、と気付かされ、心配になるのだが波江さんは特に何とも思っていないのか[出さなければいいじゃない]と淡々と言葉を紡ぐ。
「俺も最初は、そう思ったんだけど……ね、ここの家では、それは難しいみたいだ」
「あら、話しかけられないよりはマシだと思うけど?」
「そうだけどさ……。……まあいいや。波江さん、一応書類とかできてるから、後頼んでいいかな」
「……いいけど、また何か企んでるのかしら」
「そうじゃないよ。……流石の俺も、こんな状態で、何かをしようとは思わないさ。さっきから怠くてさ……少し休もうと思ってね」
そう言いながら彼は子供達が居るソファがある方までフラフラと歩いて行き、そのまま横になると息を吐き出し、目を瞑っている。
「パパー?」
「とーと、つらいのー?」
「……ああそうさ。だから、ここで少し眠ってもいいかな」
「うん、いいよー」
「おふとんもってきてあげるねー」
隠す気も無いのか、子供達の言葉に正直に答えると二人は立ち上がって2階へと向かおうとしている。