折原家2

□夏にかけて
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そんな子供達の言葉も今の彼にとっては意味がないらしく、何も言わずに仕事を続けている様だ。


―――喉に効くものとか作ってあげたら、喜んでくれるかな。


本当ならきちんとご飯を食べて、ゆっくり休んでほしい所なのだが、食欲も無い、喉が痛いから喋りたくない―――

という全く治す気がない彼の態度に、それならば喉が痛いのが和らげば少しはこちらの話を聞いてくれるかもしれない―――

そんな事を考え、子供達が美味しそうにサンドウィッチを食べている間、私は臨也の近くまで寄っていき、パソコンのキーボードに手を置いた。しかし―――


「何……しようとしてるの?」


臨也は私が隣に来た事に気付いたようで、出しにくいであろう声を使って問いかけてくる為、素直に言葉にすれば、軽く咳き込みながら返事を返す。


「いい……っ、いいよ、大した事ないから」

『大した事あるでしょ。喉痛い、咳も出る、熱っぽい、食欲も無い……でしょ?』

「…………」

『そんな体調なのに心配しないわけないじゃんっ、だから……ね?喉の痛みが和らぐようなもの、作ってあげるから』

「……解ったよ。上手く声が、出せないって言うのは……かなりキツイんだよね」


最初から素直にそう言えばいいのに、なんて思いつつ、インターネットを使って調べればハチミツや大根といったものが効くらしい。


―――ハチミツ、生姜、大根……家にあったかな。

―――あ、この塩水うがいってのも効きそう。


『ねえ、パパ―――』

「俺、やらないから。……君が、作ってくれるって、言うから……っ、許可したんだよ?」


折角喉に効きそうなものを見つけたというのに彼は私が見ている画面を見て否定する。

誰の為にやってるんだ、と怒りたくなったが、相手は病人で、ただ我儘を言いたいだけなのは解っているので、[じゃあどれがいい?]と問いかけた。


「……。喉を温める、なら、簡単だよね」

『……私は簡単か簡単じゃないかを聞いたわけじゃないんだけど……』


溜息を吐き出しつつ、一旦彼から離れて考えた方がいいと思い、朝ご飯を食べながら家にある物を思い浮かべてみたのだが、

何度思い出してもハチミツや大根といったものがない、という結果しか出なくてもう一度溜息を吐き出す。


―――この時間に買い物……。

―――外、暑そうだしなぁ……でも臨也、喉痛そうだし……。


買い物に行くにしても、かなりの温度になり始めているであろう外に出るのは、勇気がいる事だし、温度が落ち着くまで、できれば家の中で過ごしたい、というのが本音だ。

この中はエアコンがかかっており、汗を掻く事無く過ごす事が出来るので子供達も快適に過ごしているのだが、臨也の方は少し寒いようだ。


『……寒い?温度上げようか』

「いいよ。少し、肌寒いな、って思っただけだから」

『……意地っ張りなんだから。設定温度上げるからね』


頑なに弱さと言うか、[風邪が辛い]と言わない臨也にここには家族しかいないんだから、と思いつつ、リモコンを持って来て、設定温度から2度程上げて、元に位置に戻す。


『どう?少しはマシになった?』

「君は……っ、心配性だねぇ。……俺が、少し、肌寒いって言っただけで……室内の、温度を変えるなんて」

『当たり前でしょ。本当なら寝てて欲しいぐらいなのに……』


寒い、と言っている人がいるのに温度を変えない、というのはただの嫌がらせでしかないし、彼の場合は病人だ。その病人が寒く感じない温度にするのも看病する私達の仕事だと思う。

設定温度を変えた一瞬で、周りの空気は変わり、少し暑いなと思ったが、これも臨也の為だ、仕方ないと割り切るしかないだろう。
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