折原家2

□ホラー映画
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そんな私達を余所に臨也は先程用意した晩ご飯を口にしており、驚くわけでもなく笑うわけでもなく、淡々とおかずやご飯を口に運んでいる。


―――よくこんなシーンでご飯が食べられるよね……。


[怖い物なんてない]と言わんばかりの双子でもビックリしながら映画に釘づけになっているというのに、その原因を作った父親は無反応なのだから面白くない。

私は彼の驚く所が見たくて、不自然かもしれないが後ろに倒れて彼の近くに左手を持って行き、トントン、と軽く叩いたのだが―――


「……解り易すぎて驚くよ。そんな事で驚くのは子供達ぐらいじゃない?」


とそろそろ食べ終わる茶碗を手にしながら言う臨也。解っていたがそれでもやっぱりガッカリしてしまうし、少しぐらい反応してくれてもいいのに、なんて思ってしまう。


「どうかな、結構怖かったんじゃない?」

「こわかったぁぁ……」

「もうトイレ、一人で行けないよぉ……」

『パパのバカ、って思ったかな』


映画が終わった後、臨也がそう問いかけるので思い思いの言葉で感想を言い、私も思った事を口にすれば、

[面白かっただろう?]なんて人を馬鹿にするような言葉を吐き出す為、[こわかったっ]と子供達が怒っている。


「悪かったよ、お詫びとして君達が好きな羽島幽平の最新作を借りてきたから一緒に見ようじゃないか」

「!本当っ!?」

「!見るっ!ゆうへいさん、見る―っ!」

『すぐそうやってご機嫌取るんだから……』


先程まで[絶対許さない]とばかりに怒っていた子供達だが、[羽島幽平の最新作]と聞いた瞬間、一瞬にして笑顔になり、ソファに座り直すと[早く]とばかりに父親に催促している。

そんな変わりように臨也は慣れたのか、[話が早くて助かるよ]なんて言いながらもう一度ブルーレイレコーダーの方へと歩いていく。


「君は確か……[空高く]っていうアニメが気になってたんだよね?借りてきたから一緒に見ようよ」

『なっ……本当、パパって酷い……』


私だけが怒っていると思ったのか、それとも仲間外れにされていると思ったのか、彼は6巻ほどあるブルーレイを見せて

[これで機嫌直して]とばかりなので呆れると言うか、怒る気も失せると言うのか―――何度目かの溜息を肯定と取ったのか、彼は笑顔で[後で見ようか]と提案している。


―――ホラー映画がなかったら完璧なのに……。


彼の私や子供達が気になっている、好きなドラマやアニメなどは全て知っているであろう程に完璧なタイミングで見せてくるので、先程起こった事なんてちっぽけに感じてしまう。

それが臨也の狙いだと解ってはいるのだが、知っていてくれる事が嬉しいし、ブルーレイやDVDなど借りた事がない私にとってはとてもありがたい事だ。

今ではパソコンで見える事も多いが、違法の問題もあるし、規制もあるし、消されてしまう事が殆どなので気になっても見えない事の方が多い。

借りに行くにしても、カードを作る所からなので面倒だ―――というのが本音でもある。まあ子供達が羽島幽平さんのファンになってからは映画のブルーレイを借りる事も多くなったが。


『ねえ、何でホラー映画なんて借りてきたの?』

「君が考えてる通りの答えだよ。君や子供達の反応が見たくなった、それだけさ。後はそうだね……夏だから、かな」

『何それ』

「折角の夏だよ?夏を感じられる事は多いけどさ、ホラー映画って本人が[見たい]って思わないと見ないものだろう?

時々テレビとか特集やってるけど、チャンネルを替えれば誰もそれをやってる事に気付かない。携帯を持っていれば、

情報を手に入れられるかもしれないけど、子供達のような子やそういったものが興味ない人間にとっては存在自体なかったものになるんだ。だから、ね」


彼の言いたい事は解るのだが、だからと言ってホラー映画を借りる、という選択肢にはならないし、わざわざレンタルしてまで見るものではないと思う。
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