折原家2
□触りたい
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『?……あれー?あたし、大きくなっちゃった!すっごーいっ!なんでー?』
「ああそうさ。君はママになっちゃったんだよ」
―――――――……
同時刻
愛子視点
「筑紫ーっ、おきてー!パパとママ、おこしにいこー!」
「……んっ……?紫苑?」
いつも聞いている息子の声が近くから聞こえる。
いつもなら[ママ、パパおきてっ]という言葉から始まり、外はどうなっているのか、早く起きないと遅刻する、
というのを叫びながら話してくれるのだが、今回は何かが違い、娘の事を呼びながら起こそうとしている。しかもそれは近くから聞こえ、まるで私に対してそう言っているかのようだ。
―――まだ夢でも見てるのかな……。
入れ替わった、なんてまさかそんな事考えるわけもなく、自分はまだ夢でも見てるのではないか―――と思う事にしようとしたのだが、
隣では大きな声で[おーきーてーっ]と揺らすようにして起こしてくる為、薄眼を開ければいつも見ている光景ではなく、小さな顔が目の前にあった。
「あれ……パパは?」
「?とーと?とーととママならおとなりでねてるよー?」
「……え?」
何が何だか解らない。
昨日はいつも通り旦那である男―――折原臨也の隣で[おやすみ]と言い合って眠った筈なのだが、起きたら目の前には息子が居て―――私の中の予感が当たっているような気がしてならない。
「……と、とりあえずママとパパ、起こしに行こっか」
「うんっ」
色々と確認する為にもまずは起きるべきだと思い、身体を起こせば、
やはり小さく、それでいて周りは臨也が買い与えた学校の物や服などが置かれており、近くにはランドセルが置いてあった。
「今日は筑紫のばんだよっ、ぼく、昨日やったもんっ」
「?……何やったの?」
「わすれたって言ってもやってあげないよー!カーテンっ!あけないとママにおこられちゃうよっ」
「そ、そっかー。ど忘れしちゃってた」
―――交代制だったんだね……。
いつどうやってカーテンを開けているのか知らない私は、二人の中のルールみたいなものを知ったような気がして僅かに嬉しくなった。
そういうものは、例え両親でもわざわざ話す事ではないし、聞いたりもしないので知らなかったのだが、やはり双子の中にも色々とあるらしい。
「ママととーと、もうおきてるかなー」
「起きてるといいねー」
―――臨也に何て言おう……。
―――私が筑紫になっちゃった、って言って信じてくれるかな……。
もし私がそんな事を聞かされても、混乱すると思うし、信じられないかもしれない。
だが、実際になってしまったものはどうしようもないし、後はどうやって元に戻るか―――という事を考えるぐらいしかやれる事はないだろう。
「とーとー!ママー!おーきーてー!」
「起きて―!」
大きな声で叫ぶ、なんていつぶりだろうか。
しかも誰かを起こす為に叫ぶなんて、殆どなかったように感じる。
いつも隣に臨也がいたので起こすとしても肩を叩くか、声を出すぐらいなのでこうやって声を張って呼ぶ事がとても新鮮だ。
「とーとー?」
「パパ、中に入るよー」
反応がないので何をやっているだろう―――と思いつつ、目線より僅かに下にあるドアノブを動かし、中に入った。
「…………」
「ぱ、パパ……?ママを泣かせたの?」
「なかせちゃダメだよー!けんかしたのー?」
「ひぐっ……ママぁ……」
中に入ると何をどう言ったらいいのか解らない光景が広がっていた。
まず臨也に抱き着きながら大泣きしている筑紫がずっと[ママぁ]と呼び続けており、
それを彼は何も言わずに頭を撫でており、まるで浮気現場を覗いてしまったかのような気まずさだ。