折原家2
□新しいもの
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私しか知らない臨也の顔。
[妻]である私だからこそ彼のそんな表情を撮る事ができて―――誰かに自慢するわけでもないのだが、臨也と同じ[独占欲]でとっておきたい。
私は臨也のこんな表情も、こんな顔も写真で撮る事ができるんだぞ―――と昔彼が付き合って来たであろう女の人達に見せたい。
数日前にあのマンションに来た彼女だって、臨也の寝顔を見た事ないと思うし、岸谷さんですらそれほどないだろう。
―――私だけが……撮る事ができるんだもん。
『いいじゃん、減るわけじゃないんだし。臨也の寝顔、子供っぽくて可愛いと思うよ?』
「……自分がどんな顔をして寝てるのかなんて知らないから、そう言われると心に来るものがあるのは何でだろうね」
『えええ、可愛いのにー。……あ、だったら、私が写真に撮って見せてあげるよ!そしたら臨也は自分の寝顔が見える、私は臨也を撮れる、一石二鳥でしょ?』
「それは君しか得をしないと思うのは俺だけかな。……別に自分の寝顔をそんなにしてまで見たいと思った事はないからいいよ」
『……ケチ』
臨也を撮る口実ができたと思ったのだが、彼はそれを回避するように、
私が狙っていた事を解っているかのようにそういう為、口を尖らせつつ、文句を言うと[ケチって言われてもねぇ]と苦笑する。
―――どうしたら臨也を撮れるかな……。
「それで欲しい携帯は決まったのかな。俺を撮る事ばかり考えてないで少しは考えて欲しいんだけど」
『えっ!?……えーと……ちゃんと考えてるよー?うん、画質がいいか、それとも新しい機能を取るか……悩みどころだね』
既に私の頭はどうやって新しい携帯で臨也を撮るか―――という事しか考えてなかったのだが、横から臨也がそういう為、
口ではそう言いながら携帯を手に取ったり、いかにも[選んでます]という雰囲気を出す。
―――うーん……撮るよ、って言っても嫌がりそうだし……。
―――逆に不意打ちで撮ったら怒りそうだしなぁ……。
―――寝顔とかなら撮れそうだけど……バレて消されそう……。
「……そろそろ決まったかな」
『え、あっ、うんっ!やっぱり画質がいいのを選ぼうかなって思って。臨也を隠し……じゃなくて、家族写真をいっぱい保存しておきたいし!』
「心の声は心の中で言っててくれるかな。君の欲望は筒抜けなんだよ。……どうやって俺に隠れて俺の写真を撮るか、なんて考えてない?」
『っ……え、えー?そんな事、考えてないよー?』
「君は昔の君じゃないんだ。そんな下手な言葉で相手が信じると思うかい?解りやすくて助かるけど、その考えてるのが俺、っていうのがねぇ」
『い、いいんじゃない?相思相愛って事で!』
「君の思いは嬉しいけど、もっと別の事を考えて欲しかったよ。……まあいいさ。それで、その携帯でいいのかな」
言い当てられる事には慣れていた筈なのだが、やはり自分の考えを当てられる、というのはドキリ、とするものだし、それがその言い当てている本人の事なら尚更隠したくなる。
だが、彼にはそんな事すらお見通しなのか、溜息を吐きながら言葉を吐き出し、私が選んだ携帯を見つめている。
『う、うん。かなり画質がいいって書いてあるし!さっきちょっと調べたらすっごく遠い所まで見えていいな、って思って』
お試し、みたいな所に同じ機種の携帯があったので触ってみると、今持っている私の携帯ではそれほどできなかったズームが、
遠くにある字がぼやけて見える程見え、これなら近付かなくても臨也を撮れるんじゃないか、という思惑があった。