折原家2
□新しいもの
2ページ/11ページ
もしこれが[赤の他人]となれば、臨也の対応や反応も変わっていたのかもしれないが、私達は夫婦であり、家族なのだ。
そんな立場があるからこそ、彼は私や子供達の為に動いてくれる事を知っている。損をする、という事は結果的に自分も損をする事に繋がるを彼は知っているからだ。
「それじゃあ決まりだ。早い方がいいし、今からでも一緒に行こうか」
『え、早くない……っ!?』
「確かに早いかもしれないけど、俺だっていつ出掛けないといけない用事ができるか解らないし、時間だって有限だ。それなら決まった事を実行した方がいいと思わないかい?」
『……まあ』
明日行こう、とかそういう風に言われると思っていたので[今から行こう]という言葉に驚いてしまう私。
そんな私とは正反対に夏用のコートを羽織って準備を整えている彼。
まさか[新しい携帯が欲しい]と言った日に替える事になるなんて思わなくて―――
何かやっておいた方がいいのか、友人達に連絡はしておいた方がいいのか、など臨也に聞くと[俺だけ登録しておけばいいのに]と本音を漏らしている。
『そういう事言わないでよ。……臨也のおかげで私は色々な人に出会えたんだよ?だからすっごく感謝してる』
「俺は何度も言うけど、後悔してるよ。だから新しい携帯を替えるのと同時に、俺だけにすれば繋がりは消えるんじゃないか、ってね」
『……消したくないよ、私は。大事な繋がりだもん』
「……そういうと思ったから、これ以上言わないつもりだよ。君は色々な物を手に入れ過ぎたからねぇ」
『手に入れ過ぎると、手放したくなくなるんだよ。……全部大事になっちゃうから』
ある意味、自由もお金も愛も友情も、欲しいと思っても手に入れられない人間がいる中で全てを手に入れてしまった。
臨也が稼いでくるので私は何の不自由もなく過ごせるし、愛してくれるので他の人間に愛を求めたりもしない。友人達も私の事を気に掛けてくれるので、喧嘩もしない。
一つでも欠けてしまったら[私]という人間は成り立たなくなってしまうのは何となく理解しているし、その一番柱となる部分である臨也がいなければそもそも存在すらしていないだろう。
「……まあ君も彼らを大事にしてるようだし、今更それだけで消えるような繋がりなら大事にしようとは思わないよね」
『そういう事。じゃあ……よろしくお願いします』
―――――――……
新宿 某携帯ショップ
愛子視点
『…………』
「どうだい?何にするか決まったかな。俺と一緒でもいいけど、ここは君に選択肢を譲ろうじゃないか。好きなのを選ぶといいよ」
『好きなの、って言われても……』
お店の中に入り、どんな携帯にするのか―――というのを決めるのだが、同じような携帯がありすぎて困ってしまう。
携帯なんてメールと電話ができればいい、なんて今のお婆ちゃんやお爺ちゃんでも言わなさそうな事を考えていただけに、画質が、とかテレビが、とか色々言われても困るのだ。
―――何がどう違うのかすら解らない……。
同じじゃん、と言いたくなるような携帯でも画質だったり、使える機能が違ったりと知ってる人なら知っている―――というものばかりで、頭が痛くなりそうだ。
「やっぱり使いやすいものがいいと思うんだよね、君の場合。それに写真を撮りたい、って事なら画質がいいものの方がいいだろう?」
『臨也を撮っていい、って事?』
「それとこれとは別だろう?本当に君って俺を撮りたがるよねぇ」
『うん、寝顔とか待ち受けにしたくなるよ?』
「……それは勘弁してほしいなぁ」
もし彼が許可してくれたら―――仕事をしている臨也や、人間観察をしている臨也などなど、撮りたい写真がいっぱいある。