折原家2
□新しいもの
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注意書き
[騙し騙され]の続きのような、そんな話。
読まなくても大体わかると思います。
<新しいもの>
新宿 某マンション
愛子視点
『……ねえ、臨也』
「?どうしたんだい、改まって」
この前の事があってから数日。
ずっと言おう言おうと思っていたのだが、タイミングを逃してしまい、言えなかった事を言おうと思って―――
子供達が学校に行っている時間帯と、旦那が休憩のように人間観察をしている時を狙って声をかけると不思議そうにこちらに身体を向けた。
『……新しい、携帯が欲しいなって思って……』
「何だ、そんな事か。真剣な顔で言うから何か別の事かと思ったよ。俺は別に構わないけど……どういう風の吹き回し?」
『そんな事って言わないでよ……!結構考えたんだからっ』
「君にとっては一世一代の事かもしれないけど俺にとっては、そんな事なんだよ。そういうものだろう?」
『そ、そうだけど……』
「それで?どういうつもりで新しい携帯が欲しい、なんて言い出したんだい?」
悩みの大きさなんて人それぞれだ、と言いたいらしい旦那に、
[やっぱりそう言うよね]という予想みたいなものは立っていたので驚きも不安もなかったのだが、当たり過ぎてちょっとだけ拍子抜けしてしまう。
―――……喜んでいい事なのかな。
―――まあ……臨也の事が解って来た、って事なんだよね、多分……。
『……この前の事があってさ、なんて言うか……パソコンに写真をいっぱい保存したいなって思って……』
「……君さ、自分が何言ってるか理解してる?全く話が見えてこないし、完全にこの前の事、関係無いよね」
『ええと……臨也と子供達と一緒にいっぱい思い出を残していきたいな、って思って……。
今の携帯ってパソコンに繋げて保存できるんでしょ?だから、何かあってもいいように新しい携帯にして写真をいっぱい保存しておきたい、っていうのが理由……』
「……。……要は、あの事があって一層、家族としての写真を残しておきたい、って事でいいのかな」
『うん、まあそんな感じ』
自分の思いを伝える、というのは本当に大変だ。
携帯を替えたい理由についても、旦那である男―――折原臨也と会話を続けなければ伝えられず、自分の言葉の少なさにガッカリしてしまう。
「よく君、俺を盗撮してるようだけど……あれもパソコンに残しておきたい、なんて言わないよね?」
『うっ……ダメ?』
「ダメっていうか、俺が全部消してるから残ってない筈だけど?」
『新しく写し直すっ』
「そんな自信満々に言わないでくれるかな。……まあ今の君の携帯からじゃ、どっちにしても俺が持ってるような携帯にはデータは残せないんだけどねぇ」
『ええええっ、ていう事は……また最初からって事……?』
写真の事しか考えてなかったので、他のデータについて臨也から[残せない]と言われると今のままの携帯でもいいかな、なんて思えてしまう。
別に壊れたわけじゃないし、こっちの方がまだ使いやすいのでこれでもいいかな、とは思ってしまうが、臨也はニヤリ、と笑って―――
「残せないっていうのは正規の方は、って事さ。こっちの携帯にはパソコンに繋ぐっていう機能がないからね。……けど、もしそれが叶うとしたら、どうする?」
と私を挑発するような、自信があるような言い方をする為、方法があるのだというのがすぐに解り、思わず彼に飛びついて思った事を口にしてしまう。
『!……っ、臨也大好きっ』
「全く……。けどこれにはリスクが伴うんだ。正規じゃないからね。それでも君は俺を信じるかい?」
『……当たり前のこと聞かないでよ』
臨也がやってくれる事に否定はしない。
それが何であれ、結局は私達の為になるのだという事は既に学んでいるからだ。