折原家2

□騙し騙され
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酷い事、という事はまた私を[他人]として扱うのだろうか。

それともまだ他に何かやるのか―――と思うのと同時に、臨也は結婚指輪を外し、ポケットに入れた後、触れるだけのキスをし、混乱している私を余所に[代わりました]と話し始めた。


{臨也っ、早く私を入れてっ!お嫁さんをいつまでも待たせないでほしいなー}

「ああ、今開けたよ。入ってきなよ」


―――お嫁さんっ!?


先程までは大人しそうな喋り方だったのだが、臨也の声が聞こえた途端、

猫なで声、というか[やっと代わってくれたっ]と嬉しそうな声へと変わり、数秒もしないうちに扉を開けて中に入ってきそうな勢いだ。


『臨也っ!』

「……まあそういう事だよ。少しだけでいいからさ、付き合ってよ」

『……何かムカつくけど、分かった』


本当は嫌だ、と言いたい。

だが彼は少しだけ真剣そうな声音で言う為、頷く事しかできなくて―――

そんな私の心理を解っているのか[愛してるよ]と耳元で囁いた後、少しだけ私達の物を片付け、[こんなものかな]と今から来るであろう人物に備えている。


「誰なのよ、あの女。愛子にそんな事を言うぐらいなんだから何か理由があるんでしょうね」

「まあね。波江さんも色々言いたい事があると思うけど、聞かないでくれると嬉しいよ」

「……そう言うなら聞かないわ。興味も無いから」

「そう、助かるよ」


臨也が言わなければ何も分からないし、[聞かないでくれると嬉しい]とまで言われたら聞きにくい。

なので波江さんも溜息を吐き出し、詮索するのは諦めたようで自分の仕事に取り掛かっている。私は特に何もないのでソファに座っていると―――


「……来たようだねぇ」


と僅かに嫌そうな声を出した後、玄関へと向かい、何かを話したのかそのまま二人分の足音が聞こえてくる。


「初めましてっ、臨也の未来の妻、石原里佳子です!」


元気にそう言うのは、私は勝手に大人しそうなイメージを持っていたのだが、全く違って茶髪に僅かに化粧をした、あまり臨也が好きそうではない女の人がいた。

だが彼は何も言わずに[二人は秘書だよ]と私達を紹介すると―――


「臨也ぁ、女の人ばっかりっ!浮気なんてしてないでしょうねー!?」


と何を言っているんだ、と思うような言葉を吐き出し、臨也にやたらと腕を絡ませようとしている。


―――……気に入らない。


彼に懸命に近付こうとする人―――ならばまだ私の印象は違っていたのかもしれないが、

今の時点で私が彼女に抱いたのは[ベタベタするな]という嫉妬丸出しの感情であり、全く良いように見えない。

それなのに臨也は何も言わずにソファに腰掛け、[君も座りなよ]と彼女を促した。


「臨也の隣っ!あ、秘書さん、私喉乾いたので何か出してくれないですか―?でも、コーヒーは飲めないので、コーヒー以外で!」

『……はい、解りました』


何で貴女の為に―――と睨みつけてやりたかったが、ここは臨也を立てて我慢しよう、そう思い、立ち上がって台所へと向かう。


「急にどうしたんだい?何か用があったんじゃないの?」

「あ、うん……そうなんだよ。私……臨也以外の人と結婚させられそうなの!」

「……それはまた急だねぇ」


私が飲み物を用意している間、臨也と彼女はソファに座って何か話しているようで、私のイライラは少しずつ上昇していた。

解っていても、やはり気に入らないのは気に入らない―――[未来のお嫁さん]とか意味の解らない事を言う事自体、気に入らない。

貴方と臨也が結婚する未来はありませんから、と言い放ちたくなるが、私も10年以上前は本当に結婚するなんて思わなかったので何も言えない。
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