折原家2

□騙し騙され
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だがそれを[離せ]と怒ったりはしないし、無理矢理にでも離れようともしない。臨也も[どけ]とばかりの雰囲気を出しているわけでもないし、

こうやって手を回している、という事は彼からそういう行為をしたい、という事なので私は黙ってパソコンの画面を見ながらインターネットをやっている。

特に何かやりたい、というわけでもないが、携帯にメールが来ているわけでもないし、本も臨也が離してくれないと取りに行けないので仕方なく、という感じだ。


―――私は何処にも行ったりしないのに。


「……あら、誰かしら」

「波江さん行ってきてよ。俺忙しいからさ」

『……座って資料読んでるようにしか見えないけど……』


そんな温かい気持ちになりながら彼のぬくもりを感じていると来客を知らせる呼び鈴が鳴り、それに気付いた秘書である波江さんと相手するつもりもない臨也。

一応ここは臨也の事務所であり、仕事場なのだから人が来るのは仕方ない事なんじゃないかと思うのだが、彼は[適当に追い払って]とばかりの雰囲気だ。


―――誰にも会いたくない気分、みたいな……?


人には色々と気分があって、体調不良というわけでもないのだが、何となく誰にも会いたくない日や、どこにも行きたくない日、というものが存在している。

なので臨也にもそういう日があるのかな、なんて思っていると、波江さんは文句を言いつつも呼び鈴から[どちら様ですか?]と問いかけた。


{少しお話したい事があるんですが、折原さん宜しいでしょうか}

「だそうよ。どうするの?」

「話って言われてもねぇ。突然来られて、それじゃあ話を聞きましょう、って事にはならないでしょ。適当に追い返しちゃって」


―――態度が違い過ぎるんだけど……。


確かに臨也が言っている事もわかるのだが、特に急ぎの仕事があるわけでもないのなら少しぐらい話を聞いてあげてもいいのではないか、と思ってしまう。

しかし、そんな事をしていたら仕事として成り立たないし、ここは[仕事場]であって[お悩み相談室]ではないので、口を閉ざして話を聞いている。


「折原は急ぎの用事があるようなので、お取次ぎする事はできません。ご了承ください」

{ここの場所を他の人に知られてもいいんですか!?石原、って言えば解ってくれます!}

「だそうよ。貴方の交友関係に全く興味ないけど話ぐらい聞いてあげたら?聞いてもらえるまで帰らないわよ、彼女」

「石原、石原……ねぇ。……愛子、少しだけ君に酷い事をするけど、いいかな」

『え、どういう事……?』


思い出そうとしているのか、それともそういう演技なのか分からないが彼は突然私から手を離し、動こうとするので立ち上がって場所を移動するとそう言って波江さんが居る位置まで歩いていく。


「色々とあるんだよ、俺にもさ。まだ君には話して無い事とか……過去としてきたものが追い付いたって感じかな」

『臨也……っ』


何となく今の[日常]が[非日常]に変わる気がして怖くなって、思わず彼が居る所まで走っていき、袖を掴むと―――


「大丈夫だよ、君以上に好きな人間なんて居ないんだから」


と優しく笑ってくれて―――まだ何も始まってもいないのに泣きそうになった。どうしてこんなにも不安になるのか、どうしてこんなにも彼が言った言葉が嬉しいのか、まだ何も分からない。


「……何でもいいけど、愛子や子供達を泣かせたら私、仕事しないわよ」

「酷いなぁ、波江さんは。大丈夫だよ、少しだけ……愛子に酷い事をするだけから」


何を考えているのか―――何かを企んでます、と言わんばかりの表情で笑う為、すぐに解った。
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