折原家2
□おべんきょう
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『そ、そりゃあ……。小学1、2年生でやる内容なんてパパからしてみたら簡単かもしれないけど……二人からしてみたら難しいんじゃないかなぁ……』
誰もが1度は通る道であり、大きくなればどうしてあんな簡単な問題で躓(ツマヅ)いていたんだろう、
と思うかもしれないが、まだ二人にとってはそれが[難問]であり、高校生が[数学解んないっ]と叫んでいるのと同じような物だろう。
―――私も数学と英語、苦手だったからなぁ。
「パパぁ、おしえてー」
「とーとぉ、わかんないよー」
「……こういう時にだけ甘えるのは良くないよ?」
そんな会話をしていると二人はついに根を上げたのか、父親である臨也に助けを求め、紙を持ってどこが解らないのか、そしてどこを教えてほしいのかを指でさしている。
『いいじゃん、教えてあげてよ。パパ、言ったでしょ、小学校の問題なんて俺達で教えれば問題ないって』
「……それとこれとは別じゃない?確かに俺はそう言ったけど……今俺がここで二人の宿題の手伝いをする事は関係無いんじゃないかな」
「パぁパぁ……ねー、おねがーい」
「おしえてー、パーパー」
「…………」
前に子供達が休みたい、とズル休みをしようとした時に臨也がそう言い、二人が喜んでいた事を思い出し、
そのまま口にすると彼は苦笑しているような、呆れているような顔をして首を振っている。
そんな父親に二人は可愛らしい顔で抱き着いたり、擦り付くように甘えたり、色々な方法を使って教えてもらおうとしていた。
だが、彼は無言を貫き、[教えない]と言わんばかりの雰囲気であり、何故そこまでして教えたくないのか―――そう問いかけると臨也は少しだけ不機嫌そうな表情で答えた。
「俺に頼る事って言ったら君ができないような事だろう?……それが気に食わないんだよね。俺はそういう為にいるわけじゃないのにさ」
『パパ……。……大丈夫だよ、パパ。二人ともそんな事思ってないから』
子供達が頼ってくれる事は嬉しい。
でも、それは私が解らないから―――もし、私が子供達に全てを教えられたなら自分はいらないんじゃないか、そんな事を考えてしまったのかもしれない。
臨也がそんな事を言うとは思えないが、纏う雰囲気が何となくそう言っているような気がして―――小さく笑いながら言うと彼は[そうかな]と子供達を信じているのか解らない表情で呟く。
「パパはすごーいんでしょー?いっぱいしっててー、いっぱいいーっぱい、おしえてくれるもんねー!」
「じょうほう屋さん、すごいもんねー。とーと言ってでしょー?じょうほう屋さんは、いろんなこと、しってないとダメって」
「……だから教えろ、って言いたいの?」
「うんっ!パパ、いなくなっちゃダメ!ママとパパ、ずーっと、ずーーーーーーーっとなかよしなのっ!」
「ぼくと筑紫が大きくなっても、ずーーーーーっとなかよしっ!」
『そうだよ、パパ。パパが居なくなったら私……何にもできないんだから』
本当に何もできない私。
臨也みたいに器用でもないし、頭も良くないのでたくさんの事を両立する事なんてできないし、彼が居てくれるから私は生きていられる。
誰にも知られずに[今年の自殺者]というカテゴリーの中の1人ぐらいにしかカウントされなかったであろう私の命は何かと池袋で有名な[折原臨也]という人間と関わる事で、
[折原臨也の女]として有名になり、そして竜ヶ峰君達や静雄さん達が心配してくれるような存在にまでなれたのだ。
なので臨也が居なくなってほしい、なんて事は絶対と言っていい程ありえないのだ。