折原家2

□珍しい物
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『あれ……パパ、そんなにお腹が空いてたの?』


救世主のような存在が不思議そうな顔をしてこちらを見つめており、いつの間にか買い物から帰って来ていたらしい。

子供達もいつの間にか愛子が買ってきたであろうお菓子を手にしており、[後で食べるんだよ]と彼女に言われていた。


「そういうわけじゃないんだけどさ、あの子達がお腹空いた、って言うから君が帰ってくるまで何か食べてていいよ、って言ったらこれだよ」

『そうなんだ……。……二人共、これは保存食なんだから今食べちゃダメでしょ』

「ほぞん、しょく?」

「たべちゃダメなのー?」


とりあえず机の上に開けた缶詰を置いていると俺から事情を聞いた彼女が二人の前で屈み、注意するように怒っている。


『ダーメ。これはね、何かあった時の為に食べるものだから、何にもない時に食べちゃったら、本当に食べたい時に食べられなくなっちゃうよ?』

「おかいものして、かってくればいいんだよ!」

「そしたらごはん、たべられるでしょー?」

『……地震があったらお買い物、できないんだよ?お風呂も入れないし、トイレにも行けないし、ご飯だって食べられないかもしれないよ?』

「やだぁー」

「ばっちいよ、おふろにはいらないと」

『でしょー?だから準備しておくの。お風呂にもトイレにも入れるように、ご飯も食べられるように。だから今食べちゃダメっ、分かった?』

「「わかったっ」」


言い聞かせるように言葉を吐き出す愛子に子供達は本当に解っているのか解らないが、真剣そうな表情で頷き、[ごめんなさい]と小さな声で謝った。


『いいよ、私もちゃんと隠しておかなかったのが悪かったし……。でも、今度からは食べちゃダメだからね』

「「うんっ」」


―――……隠しておく?


彼女の言葉に疑問を感じた俺は、素直に問いかけると愛子は少しだけ慌てたような表情をして[ええと、ね……]と苦笑を浮かべている。


『……パパが缶詰とか嫌いなのは知ってるんだけど……結構テレビで地震とかの話題が多いから……心配になって、ちょこちょこ買い物で安い時に買ってるんだよね……』

「……見せてもらってもいいかな」

『……う、うん』


いつまでも隠し通せないと解っているのか、そのままの表情で小さな声で言葉を吐き出し、本当に悪いと思っている様だ。

どうやって隠しているのか、そしてどれぐらい缶詰が隠されているのか気になり、問いかけると小さく頷きながら台所へと導いていく。


「…………」

『ご、ごめん……!救助されるまで最低でも3日は自力で生きられるように……ってテレビで見たから、

お腹が空かないようにって考えたらたくさんあった方がいいのかな……って思って……』


台所のいつも愛子が色々としまっている棚の中を見れば、先程二人が取り出した缶詰から、

スーパーなどでよく見かけるようなものまで様々であり、一種の缶詰コーナーのようになっていた。そしてその隣の棚には非常持ち出し袋なのか、

袋が4つ詰め込むように入っており、その中には一般的に必要とされるものが入っており、彼女の[心配性]というのが存分に発揮されているような気がした。


「水とかはないのかい?そういう災害の時って一番水が必要だって聞くけど」

『あるよ。一人一日3リットルは必要だって見て……4人だったら1日12リットルは必要だな、って考えて……

3日だったら36リットル必要になってくるから、って思ったんだけど……水ってあんまり保存が利かないからさ……とりあえず困らない程度に用意してあるよ』

「……心配性だねぇ」


いつ起こるか分からない震災。

誰もが起こりうる一番の震災が、地震や津波であり、家が残っても住めなければ意味がないし、全てを無くしてしまう人間だっているだろう。
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