折原家2
□珍しい物
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そしてそれを見つけ、俺に自慢するように見せた瞬間―――俺の中の色々な物が凍りついたような気がした。
だが、波江さんもいる為、顔には出さないように心掛けつつ、静かにそう言うとこちらの心情なんて気付いていないかのように大きく返事をする双子。
―――まさか……缶詰を持ってくるなんて誰が予想するだろうねぇ。
見せてきたのは娘の筑紫はサバの缶詰であり、息子の紫苑は焼き鳥、というなんとも渋いチョイスだったが、二人は見た目と大きさで選んだのだろう。
波江さんも二人が選んだ缶詰に対して[意外と渋いわね]と褒めているのか、子供が選ぶようなものじゃない、
という事なのか分からないが、呟いている間にも二人はどうやったら中の物が食べられるのか考えている様だ。
「パパぁ、あけてー」
「たたいてもあかないよー?」
「……本当にそれを食べるのかい?」
「?うんっ」
「?おいしそーだよねー、パパも食べる―?」
「俺は遠慮しておくよ」
振っても、叩いても、引っ張っても開かない缶詰に、ついに俺に頼んでくるため、
苦笑を浮かべながら問い掛けると[どうしてそんな事を聞くんだろう]とばかりの表情で俺を見ながら頷き、二つの缶詰を差し出してきた。
―――何でこんなの買ってきたんだ……?
―――愛子は俺がこういうのが嫌いだって知ってる筈なのに。
賞味期限が長く、保存食としても重宝される缶詰。
震災や何かがあった時の為に置いてある所も多いかもしれない。
買わないで、とまでは言わないが、あまり好んで缶詰を買うような生活はしていないというのと、味があまり好きではない―――
という俺の好みの問題なのだが、家にはあまりなかったように記憶している。だが、何故か目の前に存在する二つの缶詰。
「パパぁ、早くあけてよぉ!」
「おなかすいたー!」
「……これだけ食べても美味しくないよ?」
「とーと、きらいだからそんな事言うんでしょー!」
「あたし、これたべたいのっ」
味が強く、本来はご飯と一緒に食べる物なのだが、二人には俺が嫌いだから食べさせたくなくて開けてくれないのだと認識されてしまい、怒るようにそう言われてしまってはどうしようもない。
色々と二人に缶詰を食べさせないように口で言う事はできるのだが、愛子に似て頑固な双子は[食べる]と決めたら、俺が何を言っても聞かないのはクレームを付け、怒る客のようだ。
―――……まあ食べさせてみれば解るか。
口で解ってくれないのならば自身で解るしか手はないため、俺は二人の缶詰に手をかけ、開けると嬉しそうに見つめ、
[おいしそー!]と受け取った缶詰にいつの間に持ってきた爪楊枝で突き刺して食べている。
「……どうだい、味の方は」
「からーいっ、おいしーのにねー、すっごくからいのっ」
「とーとにあげるー」
「…………」
一口、二口食べたのだが、やはり味が濃かったらしく、もういらないのか俺に缶詰を渡し、二人は興味もなくなったのか、波江さんの元に歩いて行ってしまった。
―――……俺にこれをどうしろ、っていうの?
「貴方があの子達に食べていい、なんて言うからよ。責任もって食べなさい」
「……俺が缶詰とか嫌いなの、知ってるだろう?」
「ええ、知ってるわ。だから言ってるんじゃない、食べなさいって」
「……今俺の前に鬼がいるような気がするのは気のせいかな」
無理矢理にでも波江さんは俺に缶詰を食べさせたいらしく、無表情のままでハッキリと[食べなさい]と言う為、溜息を吐き出しながらどうしようか悩んでいると―――