折原家2
□パパのメガネ
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『うーん、岸谷さんのではないのは確かだけど……。それ、どこで見つけたの?』
「パパのつくえの上ー」
「おいてあったー」
『……どうだろう』
岸谷さんの眼鏡は確か黒縁であり、これほどシンプルな眼鏡じゃなかったと記憶している。
同様に静雄さんは眼鏡をしていないし、私の友人である杏里ちゃんがわざわざ臨也の所に来て、眼鏡を置いて行くわけがない。
後は昨日来た臨也の取引相手、らしい男の顔を思い浮かべるが小太りだったが眼鏡はしていなかったのでそれも候補から外れる。
ここ数日は臨也の元に仕事を依頼に来る人、その仕事の成果を受け取りに来る人などが来ていたので誰かが忘れている―――と考えるのが妥当かもしれない。
―――臨也の、っていう可能性も捨てきれないけど……。
だが、それを否定したのが[時間]だ。
約数年、私は臨也と毎日顔を合わせ、[おはよう]から[おやすみ]まで大体一緒に居るが、
遅くなると彼から[先に寝てていいよ]と言われるので遠慮なく寝るぐらいでお風呂やトイレ以外殆ど一緒、と言っても過言ではない。
その中で臨也が眼鏡をかけている―――と言う姿を見た事が無い。
もしかしたらコンタクトでした、という事があるかもしれないが、わざわざそれを隠して生活する理由が解らないので、[否定する]というよりも[否定したい]のかもしれない。
臨也は仕事の事や自分の過去について語ろうとはしないが、それ以外の事は大体教えてくれるので、教えてくれないのには[理由がある]と理解しているし、それを探ろうとも思わない。
だがもし、本当にコンタクトで―――本当は眼鏡をしなければいけない程目が悪かったら、と思うと何だか苦しい。
―――何年も妻をやってきたんだもん……。
―――全部が知りたいとは言わないけど……もし、眼鏡をかける程に目が悪いのなら、教えてほしいな。
―――――――……
数時間後
愛子視点
『あ、臨也。おはよう』
「おはよう、愛子。あれ……子供達は?」
『もう学校行ってるよ。ていうか、時間見てよ。もうすぐお昼だよ?』
「……悪かったね。まさかこんな時間まで寝るなんて思わなかったんだよ」
そろそろお昼ご飯を用意しないといけない時間帯。
朝ご飯を準備して寝室に行き、彼を呼んだのだが、やはり起きる気配は無くて―――とりあえず冷蔵庫にしまってやる事だけやって、
のんびりした時間を過ごしていると2階から扉を開ける音が聞こえ、[起きたかな?]と思っていると階段を下りる臨也が見え、声をかけた。
彼は寝ぼけてもいないが、スッキリともしていない顔で時計を確認し、苦笑しつつ、顔を洗いに洗面所まで行くようだ。
―――……聞いてみようかな……。
子供達も誰の眼鏡なのか気になっていたようだし、学校に行く際に[パパにきいといてね!]と伝言を頼まれていたのと、
自分も気になる事なので洗面所で顔を洗っている後姿の彼に向かって声をかけた。
「眼鏡?……ああ、あれ俺のだよ」
『……何で教えてくれなかったの?』
「そうだね、特に理由はないけど……特に話す必要もないかな、って思ったからさ。別にバレて困る事でもないし、知らないのなら知らなくてもいいかなってね」
『……私は知りたかった。理由が無くても、ちょっとした事でも……臨也の事なら、知りたかった……!』
彼にとっては[眼鏡をかけている]という事は些細な事なのだろう。
私が知っていても知らなくても困らない事実。それもそうだ、目に眼鏡をかけているだけでそれ以外は変わっていないのだから。
だが、そうだとしても臨也が私の事を隅まで知りたがるように私も臨也の事が知りたい。本当なら彼の過去を全て吐き出して欲しい―――と思うぐらいなのに。
―――そんな事を考えちゃいけないかな……。
―――もっと折原臨也、っていう人間を知りたいって思っちゃダメなのかな……。
そんな小さな事も願ってはいけないのだろうか。
しゅん、とする私を見て彼はこちらに近付いてくると[おいで]と言って私の手を掴み、
いつも臨也が使っている机までやってきて指紋が付いた眼鏡を拭きつつ、[アイツらか]と小言のような事が聞こえてきたが無視をした。