折原家2

□おとまりかい
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―――どうにか、どうにかできないかな……。


折角の夏休み。

友達の家でお泊りした、なんていう絵日記ぐらい書かせてあげたい。だが、最大にして最高の壁である―――

臨也を説得、という問題が残っており、これがもし私の友人達だったり、彼の友人だったりするならば[一泊ぐらい良いんじゃない?]と言ってくれるだろう。

しかもその[友達の家]というのが臨也の天敵である平和島静雄さんなのだから、更に苦しくなるのは何も言わなくても誰もが解る事だ。


『……ちょっと他の人に相談してみる。一応私は……まあ、少し寂しいけどOKだから』

「だいじょーぶだよ、ママ!シズちゃんの言うことちゃんときくからっ」

「あとー、ちゃんとママにでんわするから、しんぱいしてないちゃだめだよー?」

『解ってるよ、大丈夫。……ありがとう二人共』


私と静雄さん、そして双子だけではどうにもならない問題なのでどうにかできないか相談する事にした。今の時刻はまだお昼前なので十分余裕はある。

臨也からの連絡はまだないが、お昼頃にはちゃっかりソファに座って[お腹空いたよ、ご飯まだ?]と待っているのはこの数年過ごしてきて解っている事だ。


[ああ、分かった。俺の方もどうにかできねぇかセルティ辺りにでも相談してくる」

『うん、じゃあお昼食べ終わったぐらいにまた電話するね』

[おう、待ってるぜ]


とりあえず静雄さんとの連絡を終わらせ、私が次の連絡先に選んだのは―――彼の秘書である波江さんだ。

彼女ならば臨也をどうにかできないか、と考え、ダメもとで電話してみると―――


[何?]


少し苛ついているのが分かる声が、電話越しから聞こえ、息を飲みつつ相談してみると―――


[普通に話しても否定されるだけだよ。アイツは、貴女や子供達が外に出たり、誰かと慣れ合うのを極端に嫌うから。そうね……こういうのはどうかしら?]


――――――――……

12時27分 某マンション

愛子視点


「お腹空いちゃったよ、今日のご飯って何?」

『前にパパ、美味しいって言ってくれた和風パスタあったでしょ?それを改良して作ってみたんだけど……どうかな?』

「おいしーっ」

「ママ、りょーりじょーずだねー!」


―――気付きませんように……。


波江さんが考えたのは臨也に睡眠薬を盛る、というものだった。

何故それを忘れた、という忘れ物が彼女の鞄に入っていて―――無味無臭、料理に入れても絶対に解らない、というもので矢霧製薬の残り物らしい。

それを一滴だけ垂らし、いつものように料理を運び、一緒に、できるだけ[いつも通り]を振る舞ってご飯を食べる。


心臓が高鳴り、手が震える。罪悪感に呑まれそうになりつつ、パスタを口に運んでいる為、味がどんな風になっているのか全く分からない。

それだけでも分かってしまうかもしれないが、臨也は流石に何年も一緒に居る私の事を疑っていないのか、

いつも通りパスタを食べて[格段に美味しくなってるよ]と感想を述べてくれた。


本当に悪いと思っている。

本当に最悪な事をしていると自覚している。

本当にこんな事をすれば嫌われると解っている。


だが、たくさん考えた上で―――波江さんに教えてもらった睡眠薬を使う事にしたのだ。


「……ママ」

『どうしたの……?』

「……君が、何を考えてるのか知らないけど……俺に薬を、盛るなんていい度胸、してるじゃないか」

『ごめん、本当に、ごめんなさい……』


それから数分もしない内に臨也のパスタを口に運ぶ動作が停まり、フォークが床に落ちて行く。

薬が効いてきているのが分かる―――トロン、とした彼の表情に可愛いな、と思いつつ、謝らなければならない、と謝罪するが臨也には通用しない。
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