折原家2
□おとまりかい
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『あ、駄目なら駄目って言っていいんだよ?二人が勝手に言ってるだけだし……』
「言ってないっ!シズちゃん、いいって言うもんっ!」
「ママ、しずおさんのことわかってないーっ」
―――解ってない、って……。
私はその場に居たわけではないので本当なのかどうかは定かではないのであまり強くは言えないのだが、静雄さんの事を考えるとそんな言葉が出てしまうのだ。
二人の子供が新宿から池袋、という地域から地域へと移動し、一泊泊まると言うのだ。
心配なのも本音だし、二人の人間が泊まる、というのも静雄さんに迷惑ではないのか、という不安もあるのだ。
それなのに二人は[わかってないっ]と怒り、電話を持っている方の手を掴んで[ぼくがでんわするっ!]と言い出し、困り果てた。
[お前ら、ママの言う事は聞くんじゃなかったのかよ]
「……だってぇ、ママしずおさんのこと、わかってないもんっ」
「シズちゃん、いいよねー!おとまりしても」
[あのなぁ……]
電話越しから聞こえてきた静雄さんの声に先程まで怒っていた声がピタリ、と止まり、言い訳のように甘えている。
―――いっつも私にべったりなのに……。
少しだけ―――ほんの少しだけ静雄さんに嫉妬しているのが分かる。
いつも私と一緒に居ないと嫌、とばかりに父親である臨也と喧嘩している双子が静雄さんを庇い、
そして甘えた声を出しているのが少しだけ寂しくて―――親離れ、ってこういうものなのかな、と思った。
ずっと臨也と喧嘩しているだけの双子じゃないのは解っているつもりだが、いざこうやって私よりも静雄さんを選ぶ、という選択をした二人を見て、悲しくなってしまうのだ。
「……ママ、さみしー?」
「……ママのかなしーおかお、きらーい。わらってるおかお、だいすきっ」
『筑紫、紫苑……』
三人のやり取りを聞いていただけの私の気持ちを知ったのか、それともまた別の事を考えているのか、大きな声を出していた二人がこちらを見て眉を顰めている。
臨也に似て感情を読み取る力に長けている二人は、こうやってすぐに[悲しい気持ち][寂しい気持ち][嬉しい気持ち]を読み取ってくれる。
こういう所が他の子供には無い、[異常]な部分なのかもしれないが、臨也で慣れている私はそこまで驚かない。
[あんま、虐めてやるなよ?お前らの大事なママだろ]
「……うん、ママだいじっ」
「だいじにするっ」
『……二人とも、静雄さんの家にお泊りしたいの?』
静雄さんに助けられたような気もするが、二人が[だいじにする]と言ってくれた事が嬉しくて―――
口元が緩んでいるのが自分でも分かり、慌てて引き締めつつ、確認するように問いかけた。
「うん、おとまりしたいっ」
「シズちゃんとババぬきするっ」
『……こう言ってるから……私からもお願い。一日だけでいいからお泊りさせてくれない?』
[……別に俺は構わねぇんだよ。それは変わらねぇ。でもよ……ノミ蟲がうるせぇだろ」
『あ……』
言いにくそうに、そして嫌々しく静雄さんが呼ぶ臨也の渾名に察してしまい、何も言う事ができなかった。
[前も……んな事、考えた気がすっけど、アイツが居なければ俺は大歓迎なんだよ]
『……それは、私がどうにかする……多分』
[多分、って何だよ。どうにかしてくれねぇと泊まる事もできねぇだろ」
「ぼくがとーとに言うっ」
「あたしも言う―!」
小学校の友達の家に泊まりに行った―――なんて臨也が[はい、そうですか]と信じるわけがない。
それは静雄さんも分かっているようで一番の問題は[臨也をどうにかする]というものだった。
だが、二人は自信満々で自分で言う、と言うが、結局彼に負けて[ママぁ]と泣き付くのは目に見えているのだ。