折原家2
□その、裏側
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「あーっ!シズちゃんだ―!」
「しずおさーんっ!」
タクシーを降り、約束の場所まで歩いていると二人は誰かを見つけたのか、指をさして相手の名前を呼んだ。
その大きな声に相手―――平和島静雄さんは気付いたのか、上司に[ちょっと行ってきます]と言って私達の方に歩いてやって来てくれた。
「よお、お前らか。何だ、こっちまで買い物か?」
「ううんっ、きょうはねー、まさおみたちとあそぶの!」
「おでかけするのっ!」
「お、いいじゃねぇか。きちんとママの言う事聞かねぇと駄目だぞ」
「わかってるよー。とーともそういうんだもーんっ」
「あたしも紫苑もきちんとママのいうこときくもん!」
「……悪かったな。んで、そのママと一緒に居なくていいのか?」
紫苑の[とーと]という息子特有の言葉で臨也の事を話せば、僅かに眉を吊り上げたようだが、
[子供達の前だから]という頭があるようで深呼吸して何事も無かったかのように会話を続けて行く。
―――静雄さんは本当に大人だなぁ……。
どっかの誰かとは大違いだ。
心の中で小さく溜息を吐いている間に静雄さんは[もう行け]と言わんばかりに言葉を吐き出したが、二人は首を傾げて[どうしよう]と悩んでいる様だ。
『……二人とも、静雄さんと一緒に居たいの?』
「!……うん。シズちゃんとあそびたい」
「!……ママといっしょにいたいけど、しずおさんともあそびたい」
「おいおい、俺今仕事中だぞ」
「いいじゃねぇか、静雄。どうせ今日の取り立ては終わったもんなんだ。それに、もう少ししたらヴァローナもこっちに合流するだろうしな」
「トムさん……」
二つの間で揺れる双子。
これから会う友人達とも遊びたいし、久々に会った静雄さんとも遊びたい。
だが、せっかく静雄さんに会ったのだから遊びたい―――という気持ちの方が大きいらしく、小さな声で本音を漏らす。
しかし、彼にだって仕事があり、つい先ほどまで静雄さんの上司であり、先輩である男―――田中トムさんと話していたばかりだ。
それでもトムさんは両手を左右に振って[行ってこい行ってこい]と静雄さんの背中を押してくれる。静雄さんにとってトムさん、という存在はとても大きいのだろう。
どういう過程で二人が出会ったのかは解らないが、二人の関係を見ていると本当に静雄さんがトムさんを慕っているのが分かるし、
トムさんも静雄さんの事を大事な部下であり、後輩だと思っているのが分かる。
―――良かったね、静雄さん。
―――自分の事、認めてもらえる人に出会えて……。
「ママー2じー!」
「まさおみたちとおやくそくっ!」
『あっ、忘れてた……!ごめん、静雄さん。頼んでいい?』
「おう、俺が見ててやるからお前は存分に羽を伸ばしてこい」
『うんっ、ありがとう!二人とも、静雄さんの言う事、きちんと聞いていい子で待ってるんだよ?』
「「はーいっ!」」
二人は街灯のように立っている時計を見つけたのだろう。
そして、習っている時計を読む方法を使って時間を知らせてくれた為、私は慌てて子供達に言い聞かせるように言葉を吐き出し、待ち合わせ場所へと足を進める事にした。
最後に[夕方には戻るから]と付け足して。