折原家2
□おともだちのおたんじょうび
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心の中で小さく溜息を吐き出している間にも二人は懸命に―――幼い頃からの友人の為、ずっと自分を見てくれていた恋人の為に頑張っており、[諦めねぇからな]なんて独り言が聞こえてくる。
だが―――
「はぁぁぁぁ……やっぱ無理か―。聖辺ルリのコンサートとか、物品販売とか、良くわかんねぇ集会とか……色々予定がありすぎて一般人に貸す場所はねぇってよ」
「狩沢さんに聞いたら……ええと、同人誌?という本のイベントがその日にあるらしくて……コスプレイベントとか、そういう大きな催し物があって貸してくれないそうです……」
「一気に何でそんなイベントが重なるんだよ……クソっ、俺らは大きな場所で祝っちゃいけねぇのかよ」
紀田君の大きな溜息と、杏里ちゃんのしょんぼりとした顔を見て―――心が痛んだ。
場所はあるのに―――たくさんの人が集まれる場所が私の近くにあるのに、あの面倒な彼のせいで踏み切れずにいる。
しかし、このまま何も言わずにただ聞いているわけにもいかないので、私は意を決して携帯電話を取り出し、電話を掛けた。
「「?」」
『……もしもし?あのさ……一つ、お願いがあるんだけど……』
[お願い?突然電話してきたと思ったら何?君が何か欲しいなんて珍しいじゃないか]
『欲しいとかそういうのじゃない。……あのさ、場所を貸してほしい』
[場所?……あのさ、いくら俺でもそんな断片的な言葉だけで理解できるほど、完璧じゃないんだよ。最初からきちんと話しなよ]
『……うん。あのさ……今度、竜ヶ峰君の誕生日なんだよね。それで……みんなでお祝いしたくて、場所を探してて……それで……』
[ああ、確か3月21日だっけ、帝人君の誕生日。3月21日……運がいいのか悪いのか、その日って確か、かなりのイベントが組まれてるんだよね。
聖辺ルリのコンサート、数か所回るとかでファンが後ろから護衛する、なんて話が出てるそうじゃないか。
……狩沢が喜びそうなイベントもあるみたいだし、大きなホールとかホテルとかは既に満室じゃないかな。それで俺の所に電話してきた、ってわけか]
『うん……。だからさ、お願い。場所を貸してほしい』
なるべく名前は出さないように、そう心がけながら電話の相手―――臨也と会話を続けて行く。
二人は[誰と電話してるんだ?]という顔でこちらを見つめており、まだ臨也と電話している、という事に気付いていないようだ。
[……。一つ、条件がある。俺の名前を呼んでよ。今すぐに]
『はぁ?何言ってるの?いっつも呼んでるじゃん。お願い、大きいマンション借りてるんだから一つぐらい貸してよ』
[嫌。あの場所は君が楽しそうに笑いながら友人達と誕生日を祝う場所じゃないんだ。俺が必要だから借りただけ。使わないなら解約するから]
『……じゃあ、子供達と一緒にお祝いすればいいじゃん』
[俺に帝人君のお祝いをしろ、っていうの?……彼は俺の誕生日なんて祝うつもりも、知ってる筈もないと思うけど?]
解っていた事だが、あっちこっちへと話が脱線し、結局竜ヶ峰君が自分の誕生日を祝ってくれないのにどうして場所を貸さないといけないの―――と言いたいらしい。
―――子供達に似顔絵描いて貰ってニヤニヤしてるんだからそれでいいじゃん……。
誕生日の日に子供達に描いて貰った似顔絵がお気に入りのようで、額縁に飾る―――とまではいかないが、大事に飾ってあるのでそういう所は解り易い。
『はいはい、解った解った。今度の誕生日は好きな物たくさん作ってあげるから竜ヶ峰君の事は許してあげて、ね?』
[……彼を援護するつもり?]
『しーてーなーいーっ、もうっ、分からず屋っ!』
[分からず屋なのは君じゃないか。周りに紀田君や杏里ちゃんがいるのは知ってるよ?だから俺の名前を出さない。そうだろう?]
『…………』
[それなのに俺の使ってるマンションを貸せ、っておかしくない?もし、俺が許可したとして……彼らは俺のマンションを快く使ってくれると思ってるの?]
『……それは……』
[君は俺の名前を出さないようにして借りようとしてるようだけど……その時点で彼らが俺を認めない、と解ってるからこそ、そうしてるのがバレバレなんだよ]
『…………』
先程まで喧嘩のような――― 一方的に怒っていたのだが、彼の言葉で一瞬にして私は何も言えなくなってしまった。