折原家2
□春の兆し
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―――まあ、元気になってくれて良かったんだけどさ……。
『それで……もうすぐ二人の卒園式だけど……臨也も行くの?』
「当たり前だろう?ていうか、どうしてそこに行かない、なんて選択肢があるわけ?」
『いや……仕事とか大丈夫かな、って思って……』
話を戻すように彼に問いかけると、ソファに座り、足を組んで言葉を吐き出す。絶対、と言う程彼は卒園式に行くだろうな―――とは思っていたのだが、
インフルエンザが治ってからは、かなり忙しそうにしていた為、行けるのか心配になったのだが、それは杞憂だったようだ。
「子供達の卒園式以上に大事なものなんてないだろう?確かに忙しいけど……どうにかなるさ」
『また倒れられたら困るんだけど……』
「大丈夫だよ。そこまで馬鹿な真似はしないし、自分の限界は解ってるつもりだよ?」
『……それならいいけど』
臨也の[どうにかなる]という言葉はあまり信用できない。
というのも、彼はすぐに無理をするし、[どうにかなるだろう]という頭がどこかにあるようで、ご飯だって平気で抜く。
それがインフルエンザへと繋がってしまったのだが―――臨也はそれでも[大丈夫だよ]と言う。
―――まあ……あれで懲りたみたいだし、大丈夫だとは思うけど……。
「それでさ、君はスーツとか着るの?」
『え?スーツ……?』
「そうね。折角の卒園式なんだもの。きちんとした格好をしないと他の母親に笑われるわよ?」
彼の体調について考えていると、臨也は思い出したように私に目線を向けて問いかけてくる。
あまり自分が着る服装について考えていなかったのだが、彼の言葉に便乗するように波江さんも乗り気なようで[何が似合うかしら]とパソコンで色々と調べているようだ。
『え、あの……』
「少し派手な方がいいわね。白……は流石に派手過ぎね。これならどうかしら」
『えーと……』
「いいんじゃない?愛子によく似合いそうだ。やっぱり俺が選ぶのと女性目線で選ぶのとじゃ全然違うねぇ」
「当たり前じゃない。ていうか、貴方が選ぶと折角の卒園式が葬式になりそうだわ」
「葬式って……全部黒だって言いたいの?」
「現にそうじゃない。今の貴方の格好と、貴方が持っている全ての服の色を見れば誰だって解るわよ」
『……それは解るかも……』
私があたふたしている間に波江さんと臨也の間で何かが決定してしまったようで、彼女の達成感のような[文句は言わせないわよ?]という表情で更に何も言えなくなって―――
心の中で溜息を吐いていると臨也と波江さんの間で服の話になり、それが彼が着ている服についての事となれば納得せざる負えない。
小さな声で納得する私に臨也は[君までそう言う事言うの?]と眉を顰めてそう言い、納得できない、と言わんばかりだ。
『だって……臨也の洗濯物殆ど黒の服だし……あんまり黒以外の服とか見た事ないから』
「俺だって少しぐらい変化のある色だって着るんだよ?」
『え、……袖に赤がついた、とか、フードが白とか言わないよね?』
「…………」
『……やっぱり』
彼の服の中には少し色が違っているのがある。というよりも、赤と黒の組み合わせや白と黒の組み合わせなどのものや、
真っ黒な組み合わせなどがあり、大体彼が着ているのは真っ黒な組み合わせだ。
子供達と親子遠足に行った時は少し色が違っていたが、基調はやはり黒であり、彼のイメージ色と言っていいかもしれない。
「臨也に服を選ばせる方がおかしいのよ」
『あ……でも、最初に私の服選んでくれた時は黒じゃなかったね』
「解らなかったんだよ。君ぐらいの年代の子がどんな色の服を着ているのか……。だから適当にサイズの合う服を選んで入れておいただけ」
『……今でも大事に着てるよ?』
「……別にいいのに」
『いいの。臨也がくれた初めてのプレゼントなんだから』
考えてみれば最初にここに来た時、タンスの中を見ると色々な色の服が入っており、可愛いものからシンプルなパーカーのようなものまで入っていた。
それは今も私のタンスの中に入っており、それを着て友人達と遊びに行く事もあるのだ。報告するように彼に言うと少し恥ずかしいのか、
目線を逸らしつつ、素っ気なく言うので隣に座り、呟くように言うと何も言わずに膝に肘を置いて頬杖をついている。