折原家2
□春の兆し
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<春の兆し>
新宿 某マンション
愛子視点
「そろそろ卒園式だねぇ」
「卒園式?……ああ、もうそんな時期なのね。あの子達、このまま新宿の小学校に入れるつもりなの?」
「俺としては来神小学校に入って貰いたかったんだけど……ここで生活しているんじゃ、通学も不便だしねぇ」
一通り家事をこなし、買ってきた雑誌を読んでいると、旦那が思い出したように秘書である女と言葉を交わしており、その内容は双子の子供達についてだった。
2月、3月と言えば卒園式や卒業式、といった季節であり、数年前のこの時期―――私も友人達と共に来良学園を卒業した。
そして月日が流れ、子供達が生まれて、その子供達も保育園へと入園し、今年卒園する事になっている。
まだその日ではないのだが、そろそろ準備を始めてもいいぐらいの時期なのだ。だが、子供達の気は早く、既に小学生になる為の準備はできており、筆箱などを見て喜んでいる。
『……臨也の小学生時代、ってどんなのだった?』
「ちょくちょく君は俺の過去について知りたがるよね。そんなに興味があるの?」
「確かに気になるわね。貴方みたいな人間がどうやってできたのか、とか興味があるわ」
「波江さんまで酷いなぁ」
あまり小学校の噂や評判などは気にしていないのだが、[来神小学校]とはどんな場所だったのか、そして彼がどんな生活を送っていたのか―――そちらの方が興味がある。
秘書―――矢霧波江さんも私と同意見のようで視線は下を向けたまま旦那に向かって疑問をぶつけた。
『いいじゃん。少しぐらいさ、臨也の事教えてよ』
「結構君には話をしてると思うんだけどなぁ。……特にどう、って事はなかったよ?大人しい、どこにでもいるような小学生さ」
『お、大人しい……!?考えられない……』
旦那の口から[大人しい]という言葉が出てくるとは思わなくて―――
思わず大きな声で言葉を吐き出すと彼は、[心外だ]とばかりに眉を顰め、立ち上がると良く動く口を存分に発揮する。
「俺だって最初からこんな性格だったわけじゃないさ。人間誰だって何かに影響を受けるわけだし、夢だって変わってくる。
一つの夢を追いかける人間だっているかもしれないけど、大体は変わってしまうものなんだよ。
夢を諦めて他の職業に就く……それが達成する事ができる可能性が低ければ低いほど……限られてくるんだよ。
……話を戻すと本当に最初は、人間を見ているだけで十分だったんだ。近すぎず遠すぎず……映画館で言うと丁度真ん中辺りかな。
近すぎれば周りは見えなくなるし、遠すぎれば周りは見えるけど霞んでしまうからね。だからそう立ち回って来たんだよ。中学になるまでは、ね」
『……インフルエンザで寝込んでてくれた方が良かったかもしれない……』
「酷いなぁ。本当に辛かったんだよ?頭痛いし、体中が痛いし、吐き気が酷いし……君もなればよかったのに」
『やだ。絶対やだ』
ペラペラと言葉を吐き出している旦那―――折原臨也に波江さんも呆れ顔であり、私も聞いているだけで疲れそうだ。
彼は一度インフルエンザに罹り、ずっと寝込んでいたのだが、その時は口数も少なく[話したくても話せない]という感じだったのだが、
回復し、こうやって動けるようになると臨也はペラペラ、ペラペラ話し続け、波江さんに怒られる―――というのが多い。
嬉しいのは解るのだが、流石にずっと話をされると[解った、解ったから]と言いたくなってしまうのだ。
―――……そんな事は言えないけど。
「酷いなぁ。ていうか、何でならなかったわけ?俺の隣でずっと寝てたのに……」
『寝てた、っていうか強制的に寝かされてた、っていう方が正しいと思う……』
熱が下がるまでの間、ずっと彼は離れたくない、と言って袖を握っており、それならば―――という事で一緒に寝る事にしたのだ。
そして夜中に苦しいものを感じ、起きて[どうしたの?大丈夫?]というのが何度もあり、その時決まって[苦しい、寒い]と震えながら抱きついてくるのだ。
インフルエンザの時は早く良くなって、元気になれ―――と思っていたが、口数に関してはあのままの方が良かった。