折原家2
□眠れない日は
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『あ、あの……』
[ああ、ごめんね。ついついセルティと話し込んじゃったよ。と言っても、もしかしたら今行ってもインフルだって解らないかもしれないよ?]
『え、それはどういう事ですか?』
「インフルは見つけるのが難しいからねぇ。菌が増えてからじゃないと解らない事の方が多いんだ。
……まあ今は結構早く見つける事ができるようになったらしいんだけど……僕は専門外だし、とりあえず解るかもね?ってぐらいの機材しか置いてないんだよ]
『そうなんですか。それでも……少しでも臨也が楽になれるなら……お願いしても良いですか?』
子供達の時、病院に行ったら少し待つだけで簡単にインフルエンザだという事を告げられたので、
すぐに臨也も解るものだと思っていたのだが、やはりそこは医師免許を持っているか持っていないかの違いらしい。
それに岸谷さんは切ったり、解剖したりする方の専門らしいので内面的な事は知識としてしか解らないようだ。
だが、岸谷さん以外の人間に頼るのも臨也が嫌がりそうだし、私はそれ以外に産婦人科の先生ぐらいしか医者の知り合いはいないので結局彼に頼るしか道はないのだ。
[子供達を迎えに行くのっていつも何時ぐらいなんだい?]
『えーと、15時ぐらいですね。だからそれよりも前に来てくれると嬉しいんですけど……』
[15時か……。うん、まあギリギリ大丈夫じゃないかな。とりあえず、何か食べられるようならゼリーとかヨーグルトを食べさせて、
食べられないようなら諦めてスポーツドリンクを飲ませて汗をかかせればいいんじゃない?]
『解りました。じゃあ待ってますね』
相手が[うん、また後でね]と言って電話を切った事を確認した後、私は持ってくる物と一緒にゼリーやヨーグルト、
それを食べるスプーンや子供達の為に買ってきていたスポーツドリンクなどを追加して彼が寝ている部屋に戻り、声をかけた。
「……愛子……?」
『ゼリーかヨーグルトなら食べられそう?』
「……いい。今は、何も食べたくないだよねぇ。ていうか、さっきも食欲、ないって……言ったよね?」
『うん、でもさっきもご飯、殆ど食べてないじゃん。だから、一口だけでもいいからさ、ね?』
いくら食欲がない、と言ってもそのままにしておくわけにはいかないし、早く体力を回復させる為には食べたり、睡眠を取るのが一番なのだ。
だが彼は、すぐに目を覚ましてしまってきちんとした睡眠が取れないらしい。
高熱のせい、というのもあるようで、高すぎる熱は彼の体力を着実に奪っており、寝る為の体力すら今の臨也には残されていない。
蓋を開け、スプーンでゼリーを一口掬い、彼の方へと持って行くが、首を振って私とは反対側に身体を向けてしまって、本当に臨也は何も食べないつもりのようだ。
―――早く元気になって、っていうのは今は難しいのかな……。
元気な私としては[食べて眠れば元気になれる]と言えるのだが、高熱で、しかも体中が痛むらしい彼にとってはそんな簡単な事すら難しいのかもしれない。
臨也だってそれは解っているだろう。早く治したい、早く熱が下がればいい―――そう思っていても身体は上手く機能してくれないし、自分の体力は減る一方だ。
『……解った。じゃあ、ここにスポーツドリンク置いておくね?』
「……飲ませてくれないの?俺は、こんなにも弱ってる、って言うのに……」
『臨也……熱高いくせに元気だね……』
「全然元気じゃないよ?今にでも、倒れそうなぐらいだ」
『うん、寝てるから倒れても大丈夫だね』
「……飲ませてよ。勿論、口移し―――」
『却下』
先程まで本当に[死ぬ]と言わんばかりに弱っていた筈だが、彼は[置いておく]と言えば、辛い筈なのにこちらに身体を動かし、[飲ませて]とせがんでくる。
もう移っているかもしれないので悪あがきなのかもしれないが、口移しで飲ませて移る確立をそれ以上上げたくない。