折原家2
□あの人のいない日
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来良学園は沖縄に行くらしく、1週間の滞在になるそうだ。
確かに東京から沖縄、といったら移動だけでかなりの時間になるのでそのぐらいの滞在になるのは当たり前なのかもしれない。
しかし、1週間あの人―――折原臨也に会えないとなるとやはり寂しい、という気持ちにもなるし、行かない方がいいのかな、という気持ちにもなる。
まあだからといって[行かない]という選択肢は選ばないのだが。
―――何て言って説得しようかな……。
――― 一生に一度しかないから、とか?
―――……臨也なら絶対[俺と行けばいい]とか言いそうだし……。
「―――さん。大河さん」
『え?……ああ、ごめん。考え事してた』
「お前なぁ、修学旅行が楽しみだからっていくらなんでも速すぎんだろ。まだ後1ヶ月も先なんだからよ」
『そうだよねー。でも、もう後1ヶ月したら修学旅行なんだ……早いね』
「そうだなー。昨日入学したような気分だぜ、俺は」
『あははは、それはないなー』
「じゃあ、説明の続きだけど―――」
―――――――……
数時間後 新宿 某マンション
愛子視点
『…………』
「?俺の顔をじ、と見てどうしたの?ご飯粒は付いてないと思うけど」
『いや、そういうんじゃないんだけど……。……あのさ、来月、修学旅行でしょ?』
家に帰ってきてから言おうと思っていたのだが、彼はまだ忙しそう―――というか、パソコンの前に座って何かを見つめて楽しそうにしていたので声をかけないようにしていたのだが、
いつの間にか夜ご飯を食べる時間となってしまい、どうやって言おうか、なんてずっと考えていた。
だが、直前に話すわけにはいかないし、準備などもあるので隠すにも限度がある。それに私はお金を持っていないのでどうしても臨也の力が必要なのだ。
―――アルバイトが出来たらよかったのに……。
彼に[必要ない]と言われてさせてくれないし、色々な時間を考えていくと空いている時間がそれほどない事に気付き、諦めているのだが、
修学旅行という行事になるとやはり必要になってくるのはお金なので、自分で稼いでお土産などを買って臨也を喜ばせたいのだ。
そんな事を考えつつ、意を決して[修学旅行]という単語を出すとあからさまに機嫌が悪くなったのが解った。
「…………」
『私、修学旅行行くつもりだから。……だから、あの……っ』
「確か、6泊7日だっけ?」
[お金を出して欲しい]なんて口が裂けても言えなかった。
なので、口をもごもごとさせつつ察してくれないかな、なんて臨也の方を見ると彼は箸を置いて難しい表情をしている。
『うん、そう。いくら6泊7日だろうと臨也が駄目、って言っても私、絶対行く。高校最後の思い出を作りたいから』
しかし、ここで諦めるわけにはいかないし、[駄目]と言われて素直に従っているだけの―――ただの人形じゃない事を彼に教えたい。
胸を張り、[絶対に屈しない]という意思を見せるように臨也の顔をじ、と見つめ、[お願い]と言うと―――
「……そんな顔をされたら嫌、って言えないじゃないか。1週間も君がいないなんて考えたくないけど、たった1週間だと思えば楽なものだよねぇ」
と諦めたように言葉を吐き出し、箸を持って[お金はいつもの所に入れておくよ]と言って私が最も言いたかった事を臨也が言ってくれた為、安心して頷く事が出来た。
『……でも、臨也と1週間も一緒に居られない、って思うとちょっとだけ、寂しいかな……』
「俺もだよ。いつもこうやって一緒にご飯を食べる君が1週間もいないんだからね」
毎日のように学校に行って―――休みの日はほぼ一緒に過ごしている私達。
離れている時、と言えばお風呂に入る時か寝る時か、トイレに入る時か、臨也が仕事の時か、私が学校の時だけだ。