アンケート
□過去のあの人
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私が見てきた何かを企んでいるような臨也ではない、まだ少しだけ幼さを残した彼の姿にドキドキと胸を高鳴らせながら言うと、
不思議そうにしながらも[少し話してくるよ]と岸谷さんにそう言って私の後ろについてくる。
―――やっぱり歳は変わっても臨也は臨也だなぁ……。
見ず知らずの―――自殺サイトで知り合い、そしてカラオケボックスで会っただけの他人を自分の家に招き入れ、住ませた人間はやはりどこか違う。
「それで?俺に話って?一応言っておくけど、これから学校だからさ、長くは話していられないよ」
『解ってます……。あの、私を臨也の家に置いて下さい……っ!』
「……は?君と俺は初対面なんだよ?それを突然置いてくれ、って言って了承する人間なんていないと思うけど」
まさか臨也に[了承する人間なんていない]と言われるとは思わなかったが、まだきっと高校生で―――裏社会と繋がっているか繋がっていないかのどちらかぐらいなんだろう。
もしそうなら少し厄介かもしれないが、元の臨也がいる世界に帰る為だ。目の前にいる高校生の臨也を利用するしかない。
―――岸谷さんやセルティさんに助けてもらう、ってのもありだけど……やっぱり、昔の臨也も見てみたい、って言うか……。
―――短い学生服の臨也も新鮮で、カッコいいなぁ。
『……信じてもらえないかもしれませんけど、私と臨也は知り合いなんです。というより……もう少し後で知り合う事になるんですけど……』
「ぷっ……あは、あははははははっ!未来から来た、なんて今の小学生も吐かない嘘だよ?ていうか、もしそれを信じたとして俺が君を家に置く、っていうメリットは?」
『料理とか、家事なら一通りできます……』
いつも通り臨也と話している感覚で話したいのだが、やはり一応学生の臨也からしたら私はまだ[他人]なので敬語を使って話しつつ、
どうにか家に置いて貰えるように自分ができる事を話せば、[料理と家事か]と少し考えるような仕草をする。
「それと一つ聞きたいんだけど、君学校は?」
『……虐められるので行きたくありません』
「へえ?……まあいいや。とりあえずお試しって事で、これ、使って勝手に待っててよ。
さっきも言ったけど、俺これから学校だからさ。君が学校に行く意思がないのなら家で待っててくれていいから」
本当の理由を混ぜつつ、臨也に言えば、彼は特に興味を持った様子もなく、
前ポケットに入っていた猫のキーホルダーが付いた自身の家の鍵であろうものを投げ渡し、[じゃあ、また後で]と言いながら去っていく。
『ま、待って……!私、臨也が今住んでる家、知らない!』
「……知らないの?俺のこと知ってるのに?……ああ、もう少し後で知り合う、って言ってたし、俺が高校卒業してから会ってるなら頷けるかもね。それじゃあ―――」
―――――――……
来神高校 教室
臨也視点
―――……何気無く家の鍵渡したけど……何で俺は自分の家に入られる事を拒否しなかったんだ?
つまらない教師の授業を聞きながら考える。
名前を聴くのを忘れた、という失態を犯しながら、それでも何故自分は何か盗られるかもしれない―――という事を考えずに自分が住む家の鍵を渡してしまったのか、と疑問に思う。
もしこれが本当に知らない人間で―――[家に置いて欲しい]と言われたら誰でも嫌だと思う筈だ。確かにそういう事に寛容な人間だって存在するが、俺は嫌だと思う方だ。
それなのに良く解らない―――[もう少し後で知り合う]と言った彼女には家の場所も、鍵も全て渡してしまっている。
これで彼女が泥棒だったら俺は明日から無一文で過ごさなければならないのだが―――何となく彼女はそんな事はしない、と思っている自分が居た。