アンケート

□宿敵達の日常
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俺達を見る好奇の目。

俺を見る憎しみにも似た目。


様々な感情がこちらに向けられている事に気付きつつも、俺は知らん顔をして子供達に声を掛けた。


「少しの間だけ、仲良く二人で待っていられるかい?」

「……とーと?」

「……やー」


そんなに時間は掛からないとは思うのだが、俺にだってやらなければならない事がある。

[情報屋]としての仕事を子供達に解ってくれ、と理解を求めているわけではないので、とりあえず預かってくれる所に向かおうとするのだが、

二人は俺の意図に気付いたのか、先程までの満面の笑みを一瞬にして不安そうな表情へと変え、俺をじっと見つめている。


「……仕事があるんだ。凄く、大切な仕事。ほんの数分だけ……待っててくれないかな」

「やだぁっ!パパといっしょがいーっ!」

「とーと、おいてっちゃやーっ!」

「…………」


二人の頭を撫でながらできるだけ優しく問いかけるのだが、双子は目に涙を溜めて首をブンブンと振っている。

いつもなら[仕方ないか]と諦める所なのだが、今日は彼女―――愛子にも用事があるように、俺にも仕事ができてしまったので諦める事ができない。

頭を軽く押さえ、どうしようかと悩んでいると―――


「いーーーざぁーーーやぁーーー君よぉ。また証拠にもなく池袋に現れやがって……今度は何するつもりだ、あぁ!?」


俺達の数メートル先に、一番会いたくなかった人物が標識を片手に自分の名前を呼んでいる。

今にでも襲いかかって来そうな相手に俺は、まさしく利用できる相手が出来た、とばかりにそちらに向き、笑顔を作って[丁度良かった]と吐き出す。


「あぁ?」

「悪いんだけどさ、筑紫と紫苑……少しの間、預かっててくれない?」

「は?何言ってん―――」

「シズちゃんだぁあ!」

「しずおしゃんっ!」


相手―――平和島静雄は俺が突然笑顔で話しかけた事に警戒するように手に力を込めたらしく、

持っていた標識は車の衝突事故が起きても絶対にならないような曲がり方をしており、あれが襲いかかってきたら愛子との約束は守れそうにない。

慎重に言葉を選ぼう―――そう思った瞬間、そしてシズちゃんが次の言葉を吐き出そうとした瞬間、双子は泣きそうだった顔をまた一瞬で笑顔に変えて天敵の方へ走っていく。


「あ、ちょっ、お前達……」

「しずおしゃん、たかいたかいしてー!」

「ぼくもー!」

「あ?……お、おい」


俺の制止も虚しく、二人はテンションが上がったのか、シズちゃんに抱きついたり腕に巻き付いたりしており、天敵は小さな子供達にやりたい放題にされていた。


―――滅多に見られないよね、こんな所……。


池袋最強と言われている相手―――それがまだ、6歳になったばかりの双子にやりたい放題にされている。こんなに面白い物はなく、口元を釣り上げ笑っていると―――


「手前、まだ居たのかよ」

「とーと、おしごといってらっしゃーい!」

「いってらっしゃーい!」


シズちゃんの虫を見る目と、先程まで泣きながら[いっちゃやだーっ]と言っていた筈の子供達に裏切られ、俺は言葉を失いながら3人に背を向ける。
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