折原家

□温泉旅行
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「解らないなら持って行った方がいいんじゃないかな。当日気持ち悪くなっても俺は知らないよ?」

『……そう言いながら心配してくれるもんね、臨也は』


そう、彼は[俺は知らないよ]と言いつつも、私達の事をいつも気にかけ、助けてくれる。

文句を言いながらも、[俺が言った事を守らないから]と言いながらも、最後は心配してくれる。そんな優しい臨也が私も子供達も大好きなのだ。

そう言うと彼はふ、と笑い、[君達だからだよ]といつもの言葉を吐き出した。


『他の人達にもその優しさを分けてあげればいいのに。臨也は十分優しいのにさ』

「俺は優しくなんてないさ。ただ君達が特別なだけであって俺は人間に対して平等に接してるつもりだよ?」

『そういうのが駄目なんだよ。人間を愛してるなら精一杯人間を愛してあげなきゃ』


彼の人間が好き―――というのは否定しているつもりは無いし、そんな臨也の姿も素敵なので何も言わないが、

折角優しい一面もあるのだから他の皆にも分け与えたらいいのでは、というと彼は少しだけ、ム、とした表情で言葉を吐き出す。


「君は俺が君だけの物にならなくてもいい、っていう発言をしてるようだけど……それでもいいのかい?」

『……それは駄目。い、臨也は……っ、私の、だから……』


臨也の言葉で我に返ったように考え、盗られてしまうかもしれない―――という答えに至った私は拳を握りしめて小さく、そして恥ずかしい言葉を床を見ながら呟いた。


「何か言ったかな?」

『……っ、言ってないっ!!』


聞いている筈なのに、臨也はニヤニヤとした表情で問いかけてくる為、誤魔化すようにそう言って逃げるように紙を持って2階に上がっていく。


―――絶対、二度と言わないんだから……っ!


「俺のお姫様は本当……独占欲が強いんだから。ま、俺も人の事言えないけどねぇ」


―――――――……

数日後 旅行前日 某マンション

愛子視点


「りょこー!」

「いちごーっ!」


やはり、と言うべきか二人に話せば、大喜びしながら臨也に[とーと、ありがとー!]とお礼を言っており、彼も口ではそれ程喜んでいないような事を言っていたが、寝室では―――


――「旅行を決めて良かった、って思わない?あの子達の為にもなるし、君は初めて家族、っていう枠組みで旅行に行けるんだ。

俺も4人で温泉に入れるし、一石三鳥、ってぐらいじゃない?」


と喜んだように言葉を吐き出しており、それを子供達に言ってあげればいいのに―――なんて思いつつ、彼の言葉を聞いていた。

そして、旅行前日。

二人は玩具を鞄の中にたくさん詰めて[はやくあしたにならないかなぁ]なんて言っていたので、流石にそんなに玩具はいらない、と言うと―――


「いっぱいいっぱいあそぶもんっ!とーとが、ひつようなのはもっていかなきゃだめっていってたー!」

「あたし、これひつようだもん!」


と言って譲らなかった為、溜息を吐き出し、怒る事を諦めた。臨也も[やらせておけばいいんじゃない?]と言っていたので、

後でなくなっても知らないよ、と最後の注意のように呼びかけると少しだけ考えたのか、鞄と私の顔を交互に見比べて必要な物だけ入れているようだ。


「愛子はもう用意できたの?」

『うーん、一応。やっぱり何かあった時の為に服一枚は必要かな、って思って』

「明日、明後日の天気は晴れだよ?それに気温もそれ程低くなるわけじゃないし、山に入るわけでもない。それなのに服が必要なの?」

『じゃあ……臨也は子供達が転ぶ確率が解るの?』

「……。ないとは言えないね」


そう、それが一番服を汚すかもしれない、と考える要因なのだ。私と臨也だけならば明日と明後日の天気を確認しておけば気にする事なんてないかもしれないが、今回は子供達がいる。
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