折原家
□温泉旅行
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なので、彼にとってこの温泉旅行というものは息抜きのようなものなのだろう。そして、私が発した言葉を利用して[温泉旅行に行こう]と言い出したようだ。
―――きっと二人とも喜ぶだろうなぁ……。
まだ旅行なんて行った事もない二人の子供に話したらきっと[りょこー!]と大喜びをしながら走り回るかもしれない。
そんな可愛らしい子供達の反応を想像しながらいつ行くのか、という事を話しあった。
『やっぱり土日、かなぁ……』
「土日は止めた方がいいと思うよ?君と同じ考えの人間がそこらじゅうにいるんだから」
『……でもさ、保育園をお休みしてまで旅行に行く、って……何か気が引けるんだけど』
私の希望は土日に行く事だ。
しかし、臨也は席が取りづらくなるらしいので子供達の保育園を休ませ、平日に行った方がいい、と言う。
「そう?結構いると思うけどなぁ。適当な理由を付けて休ませて遊びに行く親。高校の時なんて学校に何も言わずに旅行に行ったカップルの話とか聞いたよ?」
『それは……高校生だし……』
保育園児と高校生とじゃ年齢が違うし、考え方も違う。
それに高校生で両親に[休んで旅行に行きたいんだけど]と相談する子供なんてあまりいないような気がする。
0とは言わないが、皆が皆きちんと両親に了解を取り、尚且つ旅行先まで決める事なんてないだろう。
「でも、厳しい両親だと高校生になっても旅行の一つも行かせて貰えない、って所もあるぐらいだし、その両親次第じゃないかな」
『……そうだけど……』
「行きたいんだろう?家族旅行」
『い、行きたいっ!』
家族で旅行なんて彼に会うまで考えた事も無かった。
私はいつか消えるのだと、誰にも気付かれぬまま―――そっと、ひっそりと何千人の自殺者の中の1人になるのだと思っていたから。
だが、今こうして目の前に[家族旅行]という切符を手に入れられるかもしれないのだ。
このまま引き下がり、見送るよりも大きな声を出してでも[行きたい]という意思を示さなければ―――そう思い、大きな声でそう言うと彼は僅かに驚いた表情をした後、ニヤリ、と笑った。
「だろう?それなら子供達を休ませて4人でゆっくりと温泉に入ろうじゃないか」
『……それが目的?』
「そういうわけじゃないよ。本当に俺は君達と一緒に旅行に行きたいだけさ」
『……そういう事にしておくよ』
彼が何を考えているかなんて最初から解らないので、ジト目で見ても答えてくれるわけがないのだ。ふう、と息を吐き出し、
言葉を紡ぐと臨也は[本音なんだけどなぁ]と言いながら口元を釣り上げていたので[そういう所が駄目なんだよ]と心の中で呆れている間に、
彼は立ち上がり、観光ツアーが載っている広告を持って携帯電話を耳に当てている。予約をしているのだろう―――
そう思いつつ、電話が終わるのを待っていると彼はウロウロと自分が使っているパソコンデスクまで行くと引き出しから一枚の白紙を取り出し、サラサラと何かを書き始めた。
―――?
何を書いているんだろう、と思いつつ近付いていくと時間や日にち、集合場所や当日持って行った方がいいものなのか、[洗面用具]などと書かれており、こちらも気にしながら記憶していく。
―――やっぱりシャンプーとかは各自、って感じなのか……。
やはり頭や身体、というものは体質があり、合う合わないがあるので各自自分の体質に合ったモノを―――というのが向こうの考えなのだろう。
確かにそれは妥当な考えなので私も頷きながら紙を見ているといつの間にか電話を終わらせた臨也が[じゃあ、後は頼んだよ]と言うので
[解った]と答え、彼の書いた紙を持ってもう一度確認していく。大体の物は向こうで用意してくれるらしく、私達は本当に自分達が使う、と判断したものだけ持って行けばいいようだ。
「乗り物酔いとかは大丈夫?」
『多分……大丈夫だと思うけど……』
あまり長い間、タクシーや電車、バスなどに乗らないので自分が乗り物酔いをするのかどうかも解らない。