折原家
□俺、臨也
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オレオレ詐欺は犯罪です。どんな事があっても人を騙してお金を盗ろうとしてはいけません。
<俺、臨也>
新宿 昼 某マンション内
愛子視点
『…………』
何もない一日。
友人達と遊びに行く事も、子供達の保育園の行事も無く、仕事をしている彼の姿を眺めながらテレビのチャンネルを動かしてみたり、読んでしまった雑誌を読み直したり、
外の天気を眺めてみたり―――そんなのんびりとした時間を過ごしていると携帯が震えている事に気付き、確認すると画面には[非通知]と表示されており、一気に出る気も失せて放置する。
最初の頃は[非通知?]という感じで電話を取ろうとしたのだが、彼から危ないから駄目だ―――と注意されて寸での所でやめた。
それから殆どかかってくる事はなかったのだが、何もない今日―――突然電話がかかってきたので溜息を吐くしかなかった。
―――気になるけど……怖い思いはしたくないし……。
相手は自分の電話番号をこちらに気付かせないように敢えて[非通知]というものを使ってくるので、友人達や知り合いのような知っている仲ではないのは確かだ。
それに[情報屋]という仕事をしている旦那が危ないから、と言って電話に取らせないようにしているのにわざわざ危ない橋を渡るのは馬鹿なのでとらないようにしていたのだが―――
何度も[非通知]から電話がかかってきて、先程までののんびりとした時間が一気に消えてしまったかのような錯覚になる。
―――私の電話番号を知っててかけてきてる、って事……?
―――それとも適当に電話をかけたらかかっちゃったけど出てくれないから何度もかけてる、って事?
もしかしたら知り合いかもしれない―――なんて考えるが、相手は[非通知]を選んでくるような相手だ。
何をしてくるか解らない。だが、もし相手が間違えてこちらに電話をかけてくるのならば、教えてあげなければならない。
それにこれ以上電話がかかってくるのが嫌だ、という理由もあるのだが。私は意を決して何回目かの電話に震えながら着信ボタンを押し込むと―――
[俺、折原臨也っつーんだけど。ちょっとヤバイ奴に目を付けられちまって……助けてほしいんだけど]
良く知っている―――というか旦那の名前が耳から聞こえてきて笑いそうになった。パソコンデスクで座っている男―――折原臨也は小さな欠伸をしつつ、
楽しそうにキーボードを打ち込んだり、時々書類を確認したり、お仕事真っ最中、という感じなのでこんな電話を掛ける事なんてできない筈だ。
それに耳から聞こえてくる声は、彼の声とは全く違い、野太くガサツさが解る声音であり、臨也とは似ても似つかない男の声だった。
『どういう……事ですか?』
[色々あってよ。ちょーっと実際に起こった事と情報が違うって言われちまって……200万出したら見逃してやる、って言われたんだ。だから……助けてくれよ、頼む]
―――……臨也が情報屋、って事を知ってる人か……。
実際に目の前で脅されているわけでもないし、暢気にパソコンで仕事をしている本物の臨也がいるので怖れる事も無く、冷静に情報を聞き出していく。
『そんな……200万、なんて大金出せませんよ……っ』
[頼むよ。俺、このままだと殺されちまうかもしれねぇんだ。他の奴らにも電話したのに電話、切られちまって……]
『でも……』
何故彼は[折原臨也]という人間を選んだのだろうか。
もしかしたら有名だから、とか[情報屋]だからという理由かもしれないが、臨也自身がお金を持っている―――という考えに到らなかったのだろうか、という純粋な疑問が生まれてくる。
しかし、相手は受け渡し場所や一人で来るように―――という言葉を最後に電話を切ってしまい、それ以上何かを聞く事ができなかった。