折原家
□新一年生の卵
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「あのね……お前達の玩具みたいに簡単に買っていい物じゃないんだよ?それに両親……お前達のおじいちゃんとおばあちゃんにも見てもらわないと」
「おじーちゃんにあうのー!?」
「おばあちゃんにあいたいっ!」
「……全く。ママもさ、見てないで考えてよ」
3人の会話を聞いているだけでも面白いのだが、彼はそれを許さない、とばかりに私の方に視線を向け、[考えろ]と言う。
―――そんな事言われても……。
『考えろ、って言われてもさ……お義母さんとお義父さんに連絡すればいいんじゃないの?』
「……例えばすぐ近くに住んでいたとしよう。例えば、電話をすれば来てくれる仕事をしているとしよう。……それなら俺は喜んで電話をするし、連絡も入れるよ?
けど……俺の両親はそんな簡単に帰って来られるような仕事じゃない事は君も知ってるだろう?」
『……でもさ、やっぱり二人のお祝いなんだし……』
「そりゃあね。けど、まだ二人は卒園すらしてないよ?二人の気まぐれでこっちに帰って来られるような楽な仕事はしてない筈だよ?」
私は[連絡した方がいい]と考えるが、臨也の考えは[どうにかして二人の興味を逸らしたい]という事らしい。
確かに臨也の両親は1年に一回、もしくは3年近くこちらに帰ってきていない、と聞くし、時々かかってくる電話だけが両親が外国で生きている―――と解る手段である。
彼にとってそんな忙しいであろう両親を呼ぶのは気が引けるのだろう。しかし二人はよっぽど[ランドセル]というものに興味があるのだろう。
二人でお願いするように父親に向かって甘えた声を出し、[パーパ、ランドセルかってぇー]と吐き出している。
「……解ったよ。けど、もしお婆ちゃんとお爺ちゃんが帰って来れない、って言ったらランドセルの話はなし。……それでいいかい?」
「「はーいっ」」
解っているのか解っていないのか、二人は元気な声で返事を返し、右手と左手を伸ばして自分を主張する。
そんな双子の様子に呆れた溜息を吐き出しつつも、両親に電話を掛ける為に充電器に差さっていた携帯電話を取りに行き、その場で電話を掛けるつもりのようだ。
『しーっ、しなきゃダメだからね?』
「はーい」
「しーっ」
電話をかけている彼の迷惑になる為、二人に呼びかけると解ってる、とばかりに小さく人差し指で[しーっ]と口で言い、邪魔をするつもりはないようだ。
「―――そうなんだよ。……うん、へえ。意外だね、母さんが父さんと一緒に帰ってくるなんて。……へえ、そう。……うん。……うん」
何の話をしているかは解らないが、彼の声はとても嬉しそうであり、久しぶりに電話ができて臨也なりに歓んでいるのだろう。
それから数分後。[じゃあ、また連絡するよ]という声を最後に電話を切り、小さく息を吐き出す臨也。
「来週あたりにこっちに帰ってくるそうだよ。その時に筑紫と紫苑に少し早いけどクリスマスとランドセルを買ってあげたい、ってさ」
「ほんとっ!?やったぁ!おじーちゃんとおばあちゃんにあうのたのしみー!」
「たのしみーっ!はやくおじーちゃんとおばあちゃんにあいたいなぁ」
「気が早いよ、お前達。まだ7日もあるんだから」
そんなにも買ってもらっていいのだろうか―――と思い、問いかけるが、彼は[いいんじゃない?素直に受け取っておけば]と軽く言うので、
そんなに簡単でいいのだろうか、と不安を抱えつつ、こちらに来た時にお礼を言おう―――そう心に決める。
「いーち、にー、さーん、よーん、ごー、ろーく、なーなっ!」
「7にちなんてすぐだよー!」
―――――――……
7日後 折原四郎の日記
今日は1年ぶりに孫となった筑紫と紫苑、そして妻である愛子さんと息子、そして響子と私の6人で新宿にある百貨店に来ていた。
やはり女同士、というのはどこか気が合うのか、服を見たり、アクセサリーを見たりと楽しんでいるようで何よりだ。