折原家
□新一年生の卵
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<新一年生の卵>
新宿 某マンション
愛子視点
「ねーとーとー?」
「?」
「ぼくと筑紫がほいくえんをそつえんしたら、なにになるのー?」
「……それは小学生になるのか、っていう単純な問いかけをしてるのか、
それとも別の意味を含んでいるのか知らないけど……あの保育園から卒園したらお前達は小学生になるんだ。ランドセルを背負ってね」
休日のある昼下がり。
ご飯も食べ終わり、彼の仕事もそれ程忙しいわけでもないのか、いつもの定位置でのんびりと趣味である人間観察を楽しんでいるようだ。
そんな父親に対し、息子は不思議そうな表情をしながら彼が座っている椅子まで歩いて行き、疑問をぶつける。
一瞬、息子の話が理解できない―――と言わんばかりであったが、彼なりに話を理解し、疑問に答えると―――
「ランドセル―?」
と次の疑問をぶつけ、子供の興味は尽きないようだ。人形で遊んでいた娘も新しい言葉に興味を持ち、[ランドセル、ってなーにー?]と問いかけながら息子と同じように寄っていく。
「……何て言えばいいのかな。小学生になるとお前達がいつも持って行く鞄がリュックになる、って言えば解るかい?」
「リュック!えんそくっ!」
「えんそくいきたいっ!」
「ぼくもいくー!」
子供達に解るように言葉を選んで答える彼―――折原臨也だったが、二人は別の方向に理解してしまったらしく[えんそくー!]と嬉しそうにしていたが、次の言葉で疑問に変わる。
「そうじゃないよ。遠足じゃなくて勉強をする場所に行くんだ」
「べんきょー?」
「ねんどするのー?」
「粘土は……どうかな。やる地域とやらない地域があるから。お前達がやるような粘土じゃなくて、先生に[これを作って]って言われたものを作るんだ」
「やだー……うさぎしゃんつくりたいもん」
「ぼくもー。ロボットつくったらねーせんせーがじょうずだねーっていったー」
「そう、良かったね。まあ作品展とかあるし、そういう時にお前達が好きな物を作ればいいんじゃないかな」
「そっかー。しょーがっこーたのしー?」
「おともだち、いっぱいできるかなー」
何度も何度も繰り返し、自慢するように話していた粘土の話。
息子―――折原紫苑は好きなロボットを粘土で作っていると担任である先生が、[上手だね]と笑って褒めてくれた、そんな話だった気がする。
一度子供達が来るまでの間に見せてもらったのだが、紫苑が作ったロボット、のような粘土の下の紙に花丸が書いてあり、本当に褒められたのだと知った。
他の子と似たり寄ったりの作りなのだが、それでも紫苑のロボットのような粘土は立っていたし、何を持たせているのか何となく解る。
―――……親バカ、ってこの事だね。
うちの子が一番上手―――それは私にも解る感情であり、紫苑の粘土が一番上手だと思うし、先生が褒めてくれた事は自分の事のように嬉しいのだ。
「楽しいんじゃないかな。今でもお前達にはたくさん友達がいるんだろう?小学生になればもっとたくさんの子達と友達になるさ」
「えへへー!ねーとーと!ぼく、しょーがくせーになる!」
「あたしもなるー!」
「なる、って言われても……まだ卒園しても無いじゃないか」
「ランドセルっ!とーと、ランドセルかってー!」
二人のテンションが上がったのか、興奮したような顔で両足を動かしてバタバタと彼の周りを動き始め、[ランドセル]という新しい言葉を口にした。