折原家
□甘い時間
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「……どういう時に?」
『さっきみたいに必死で起きてようとしている所とか……私の代わりみたいに枕を抱いて寝てる所とか……
仕事中に眠くなってきて波江さんに気付かれないように欠伸してる所とか……その欠伸を噛み殺してる所とか……色々、かな』
「…………」
気になったのか、素直に聞いてきたので私も素直に答えると、僅かに唖然としているのか笑う事も無く怒る事も無く、
ただ小さく口を開けただけの臨也がいて―――[それぐらい、臨也の事を見てるんだよ]と心の中だけで恥ずかしい言葉を吐き出す。
「……よく見てるじゃないか」
『まあね。もう何年も一緒に居るから……臨也の顔なんて見飽きたぐらいだよ』
「へぇ。見飽きたんだ?」
『え……あの、臨也さん……?』
自慢するかのように言葉を吐き出す私に彼は―――口元を釣り上げたかと思えば、私の腕を握り、そのまま押し倒す。
まさか早朝からこんな事になるとは思わず、息を飲んだのだが―――それ以上の行為をする事は無く、[見飽きた]という私の言葉に反応しただけのようだ。
「ねえ、愛子。生殺しっていうのもいいんじゃない?たまにはさ」
『……臨也って意地悪だよね』
「君が一番良く解ってる事じゃないか」
こちらは既に[キスをするかもしれない]という気持ちでいっぱいなのに―――それなのに、何もせずにただ押し倒されただけの状態にヤキモキしている私。
そんな私の姿を楽しむかのように唇を数ミリまで近づけては離れ、敏感な部分を解っている筈なのに敢えてそこは触らず、周りを触って焦らす臨也。
『い、臨也……。触ってよ、ね?』
「見飽きたんだろう?それなら、新しい俺を発見すれば君はまた俺を見てくれる。君の視線は俺を理解しようとしてくれるから好きだよ」
『……臨也……臨也……』
我慢できなくて―――自分からお願いすると臨也はニコリと微笑んで、触れるだけのキスを落とし、覆いかぶさるようにして抱きしめてくる。
彼の匂い、彼の体温―――それらが全て自分を守ってくれるような温かいものであり、壊れた人形のように彼を求めた。
『……臨也の匂いがする……』
「加齢臭がする、とか言わないでよ?俺はまだそんな年にはなりたくないからさ」
『……臨也の加齢臭なら気にならないかも……』
「…………」
ふわり、と香る彼の匂い。
シャンプーの匂いと柔軟剤の香り、そして彼自身の匂い。
今はこれだけなのだが、もっと年を取れば、加齢臭と呼ばれる中年特有の匂いに変わるらしいのだが―――嗅いだ事がないので臭いのかいい匂いなのか解らない。
それでも、彼の匂いならば受け入れられる自信があって―――どれだけ自分は臨也の事が好きなんだ、と改めて考えさせられてしまう。
―――あんな出会い方だったのにね……。
「君は……柔軟剤の香りがするよ。パジャマにも使ってるのかい?」
『うん。いい匂いだったから、つい……』
ほんの少しだけ入れたつもりだったのだが、これだけお互いにそれを感じている、という事はそれだけ匂いが強い、という事になる。
臭かっただろうか―――と不安になって問いかければ[いいんじゃない?]と了承が出たので安心した。
「これだけ同じ匂いがあると……自分の匂いってつけられないものだよねぇ」
『そう?……あ、服から臨也の匂いがする……』
「……加齢臭みたいな言い方しないでくれる?地味に傷つくんだけど」
一緒に暮らしているのだから当たり前なのだが、彼は自分の匂いを付けたいようだ。なので、鼻に袖口を持って行き匂いを嗅ぐと―――確かに彼の匂いがする。