折原家
□あちこちどっち?
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今回は双子ちゃんの話です。
<あちこちどっち?>
新宿 某保育園 運動場
視点なし
「?」
いつものように友達と遊んでいた双子の姉は、人だかりができている方へと目を向ける。
声には[かわいー]や[ちいさーい]と歓びの声が混じっており、中には[まいごかなー?]と心配する声まで様々だ。
「どーしたのー?」
「みてみてー!ねこしゃん!」
気になった姉はとてとてと友達と共に人だかりができている方へと向かっていき、近くに居た女の子に声を掛けた。
すると、女の子は指さすように人だかりの原因を教え、それに沿って目を向けると―――
そこには首輪を付け、小さいながらに必死で親を探す子猫が[にー、にー]と鳴きながらよちよち歩いている姿があった。
「かーわーいー!」
「かわいーかわいー!」
「にゃんにゃん、ママさがしてるのかなー?」
一目見た瞬間から子猫の虜となる姉。
抱きしめたい欲求を押さえつつ、他の友達がキョロキョロと親を探しているので姉―――
折原筑紫も一緒になって親を探すが、それらしい猫は1匹もおらず、[ねこしゃんのママいないねー]とガッカリと頭を落とす。
「なにやってるのー?」
「紫苑くんだー!」
「紫苑くん、いっちょにあそぼー!」
「うん、いいよー!」
人だかりが大きくなっていくのと同時に違う所で遊んでいた弟も気になったのか、一人でとてとてとやってくるが―――女の子達に遮られてしまい、見る事は叶わない。
それでも、気の良い返事をする弟―――折原紫苑は気になるのか、チラチラと人だかりの方を見つめている。
「ねこしゃん、よしよししたらいたいいたいにならないかなー」
「へーきだよー!筑紫ちゃん、よしよしするー?」
「うんっ」
子猫の近くにいた男の子が筑紫の言葉を聞いていたのだろう。照れくさそうにしながらも可愛い女の子を誘うとすぐに肯定し、輪の中へと入っていく。
「ちっちゃー!ふわふわー!」
「かわいーでしょー」
「かわいーかわいー!」
「筑紫だけみるの、だめー!」
ゆっくりと、それでも子供らしい乱暴に抱き上げるが、子猫は[にー、にー]と鳴くだけで抵抗は殆どせず、保育園児にされるがままだ。
まだ毛が揃っていない子猫に癒されている姉に先程まで女の子達と一緒に居た紫苑が輪の中に入ってきて、[ぼくもだっこー!]と両手を広げて待っている。
「やーだ!あたしがだっこしてるんだもんっ」
「筑紫のケチー!だっこー!」
「やーっ、ふわふわーっ、ちっちゃいねー」
しかし、紫苑の言葉を無視するようにプイ、と顔を背けると子猫を自分の胸元まで連れていき、背中を撫でているようだ。
「……だっこー……」
「……。はい、だっこー」
あまり他の女の子達には見せないような表情で頼み込んでくる弟に―――筑紫は少し考える素振りを見せた後、一旦子猫を下に降ろし、
いつでも抱っこできるよ、と紫苑に声を掛けるとすぐに嬉しそうな表情で笑顔になり、ゆっくりと慎重に自分の許に引き寄せる弟。