折原家

□甘い誘惑
2ページ/24ページ

―――いい話を聞いた。


折原臨也は結婚しており、そして子供までいるようだ。

ニヤリ、と口元を釣り上げ、復讐を考えた。しかし、何故あの男は真奈に[今フリー]だと嘘を吐いたのだろうか。

そう考えた瞬間、折原臨也は真奈を好きになり、妻や子供と別れる事はできないので[今フリー]だと嘘を吐き、駆け落ちでもしようとしているのではないか―――そう考える。


―――それなら……俺が折原臨也の女を奪えばいいのか。


子供も女も俺が奪えば、少なからず奴にダメージを与えられるかもしれない。しかし、既に駆け落ち寸前―――となれば、夫婦の仲は冷め切っている可能性も高い。

だが、ここで諦めていては折原臨也に復讐するなんて夢のまた夢なので、必死に奴の事務所を探し出し―――新宿のとあるマンションだという事が解った。


―――絶対ぇ……許さねぇからな、折原臨也!


―――――――……

同時刻

視点なし


「…………」

「あら、疲れた顔をしてるわね。貴方でも疲れるのね、意外だわ」

「俺だって人間だからねぇ。疲れるし、眠くなるし、休みたいって思う人間の気持ちも解るつもりだよ?」


男は自宅兼事務所でもある新宿のとあるマンションで、大きな溜息を吐き出した。

それを見ていた女は皮肉にも似た声で男に声を掛けると椅子をギシリ、と鳴らしつつ、言葉を紡ぐ。


「それで……今回は愛子に内緒で何をする気?」

「……何で俺が愛子に内緒なのか知ってるのか、気になるけど聞かない事にするよ。ちょっと久しぶりに、ね。でも、子供達や愛子を愛してる事に変わりはないから」

「……そのうち愛想尽かされればいいわ」


男―――折原臨也の言葉に興味も無くなったのか、無表情のまま口を開く女。


「愛想なんて尽かされるわけがないだろう?子供達は俺の事を[大好き]なんて言ってくれるんだよ?可愛いだろう?

愛子だってもう何年も俺の隣を歩いてきて突然愛想尽かすなんて事、あるわけがないじゃないか」

「そう言っていられるのも今のうちよ」


惚気話を語る臨也に女―――矢霧波江は小さく鼻で笑い、[本当にそうならないかしら]と独り言を呟いた。

臨也は今、妻に内緒でネットなどで知り合った女達と会い、恋人のような真似ごとをしていた。

女が[彼氏はいないです]と言えば付き合い、[彼氏はいます]と言った人間にはそれ以上連絡を取る事はしない。


そしてそれが数回続いた時、一人の女と会い、[彼氏はいないです]というので付き合ったのだが、彼女―――谷辺真奈という女は男遣いが荒く、

臨也に対しても遠慮なくプレゼントを要求したりとやりたい放題であり、一瞬で切りたくなったのだが、

男が自分に復讐する―――と解った瞬間、すぐにその女を手元に置いておきたくなり、こうしてパソコンで連絡を取り合っているのだ。


「どうだろうねぇ。今回は愛子にも手伝ってもらうつもりだけど……内緒にしてあるからもしかしたら向こうがいい、って思うかもしれないね?」

「……貴方、それでいいの?」

「良いわけないだろう?俺の奥さんが取られようとしてるんだよ?奪う時は、奪い返してやるさ」

「……そっくりそのまま貴方にその言葉を返すわ」


今相手にしている女達は何だ―――そう臨也に言いたい波江であったが、女も女なので[どうでもいい]の一言で済ませ、自分の仕事へと戻っていく。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ