折原家

□家出した日
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<家出した日>


新宿 某マンション内

愛子視点


『……。もういい。臨也なんて知らないんだから!』

「……勝手にそのドアから出て行けばいいさ。俺は止めないよ?」

『……っ、臨也なんて大っ嫌いっ!!』


臨也と喧嘩した。

喧嘩、というよりも一方的に私が感情的になって彼に当たり散らし、手の平を握りしめ、上着を羽織って迷いも無く靴を履き、玄関の扉を開けて外に出た。

外は私の感情とは対照的に透き通って晴れ渡っており、冬に終わりを告げるような―――そんな暖かな日差しを含んでいる。


―――今日という今日は……絶対、絶対許さないっ!

―――臨也が悪いんだもん……!


宛も無く外に出てしまったが、何とか上着の中には池袋に行けるだけのお金が入っていたので歩いて池袋へ―――という最悪な事態は免れたようだ。

いつも子供達や臨也と通い慣れた道を今日は自分一人で歩くのは何だか寂しい気もしたが、[私は悪くない]と思い直す事によってその想いを斬り捨てた。

電車に乗ると池袋は簡単に行けるのに、どうして歩いて行くとあんなに長く感じるのだろうか―――

なんてどうでもいい事を考えていると、いつの間にかアナウンスが目的地を告げ、到着した事を教えてくれる。


そこで降りる人間と乗る人間で溢れ返り、人の波に飲まれてしまいそうになるが、何とか改札口を出て―――

どこに行こうかと迷った時、一番最初に顔が浮かんだのが竜ヶ峰君だったので彼の家に向かう事にした。


―――いなかったらどうしよう……。


この時間帯ならば、外に出て遊びに行っていても仕事をしていてもおかしくない時間だ。

しかし、お昼を過ぎた頃なのでもしかしたら家にいるかもしれない―――という淡い期待を持って彼のアパートの階段を上った。


『竜ヶ峰君ー?いるー?』


トントン、とノックをしても反応が無かったので声をかけてみたが、やはり反応が無く―――仕事かどこか遊びに行っているか、そのどちらかだと知り、落胆する。


―――遊びに行ってるなら紀田君達も居る筈……。

―――それならどこにいるか解らないし……残りは門田さん達とセルティさん達と静雄さん……。


メールでのやり取りで今日は休み―――なんて言っていたのでもしかしたら入れ違いになってしまったかもしれない。

だが、そこまでして竜ヶ峰君達に逢いたいわけでもないので久しぶりの一人を満喫する為、繁華街へと向かった。


―――……筑紫、紫苑……。

――― 一緒に連れてこればよかった……。


トボトボと繁華街を歩いていると子供を抱っこしたり、ベビーカーを引いて歩いている女の人を見てしまい、双子の子供達を思い出し、悲しくなった。

あの時、二人は驚きつつも恐怖で泣きそうな顔をして寄り添っており、私達の喧嘩を止める―――なんてできる歳でもない。

だが、もしここで二人が居たとしたら電車のお金が払えず、新宿で寒い思いをさせていたかもしれない。そう考えると子供達は置いてきて良かった、と自分を納得させた。
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