折原家
□骨折したあの人
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『大丈夫、大丈夫……ね。だから、少しだけご飯食べよ?腕が治っても体を壊したら元も子もないんだから』
「…………」
見た目的には解らないが、体重も減っているのだろう。
臨也にそんな事は聞けないが、元々太っていないのにこれ以上食べなければ本当に身体を壊してしまいそうだ。
無理させないように、そして臨也のペースで―――それを心がけながら魚を食べやすい大きさにして口に近付ける。
それを見て最初は顔を背けてしまったが、[無理しなくていいよ]と言うと少しだけ口を開けて魚を食べてくれた。
それから少しずつではあるが私が魚を切り、臨也が食べる、という作業を繰り返しているといつの間にか魚は皮と骨だけになっており、完食した事を知らせてくれる。
『ほら、見て。全部食べ終わっちゃったよ。頑張ったね』
「……子供扱いされてる気がするのは気のせいかな」
『気のせい気のせい。いつもは半分も食べないのに……』
「不思議と嫌じゃなかったんだよ。……もっと食べさせてよ」
『はいはい』
くっついたまま臨也は雛のように口を開け、早く早く、と言わんばかりだ。仕方ないので箸で卵焼きを切って彼の口の中に放り込む。
「ん、美味しい。久しぶりにまともに食べた気がするよ」
『箸を持つ練習でもすれば?』
「これでいいよ。君から貰った方が美味しく感じるからねぇ」
いつものような顔で笑ってくれる臨也に―――安堵している自分がいる。
ご飯を食べてくれなかった時はあまり笑った顔は見せてくれず、眉をいつも顰めているようであったが、今は自然に笑みを浮かべてくれている気がした。
先程までは[自分で食べる]と頑なに拒んでいた筈なのに、一度食べてしまえばこちらの方が楽なのか、甘える仕草をしながら卵焼きを咀嚼している。
『甘えん坊……』
「君と俺との関係はこれでいいだろう?」
ご飯を食べるには些(イササ)かくっつきすぎているような気がするが、彼がご飯を食べてくれる為にはこうするしか他に手は無い。
またご飯を食べずに、ずっと周りに不機嫌をばら撒かれるのは嫌なので臨也のやりたいようにさせる事にした。
『あ、そろそろ行かなきゃ……』
「……行っちゃうの?」
食器を台所へと持って行き、時間を見るとそろそろ子供達を迎えに行かなければいけない時間だ。
まだ1月の上旬とあってか、早い時間に保育園が終わるようで子供達は嬉しそうに[はやーい]と言っていたのを思い出す。
しかし、健康の時なら[いってらっしゃい]と笑って送ってくれるのだが、子供達が保育園に行き出してからこうやって引き留めようとする。
原因は、今彼は情報屋をある程度の所で止め、長い時間情報を集めたり、人に会ったり、という事をやっていない。
そして、折原臨也が怪我をしている、という情報が漏れないように外に出ないようにしているのだ。そのせいか、余計に甘えん坊が加速し、子供のように我儘を言って困らせようとするのだ。
『筑紫と紫苑、待ってるよ?』
「……。……波江さんは?」
『波江さんは臨也の代わりに仕事して貰ってるでしょ』
空いた穴を埋めるように―――波江さんは[自業自得よ]と鼻で笑って彼の仕事を嫌々引き受けている。