折原家
□骨折したあの人
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注意書き
[謹賀新年]の続きのようなものです。
読んでいなくても大体わかります。
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[骨折したあの人]
新宿 折原臨也のマンション
愛子視点
『はい、あーんして』
「……それぐらい自分でできるんだけど」
『じゃあ、ほら……あ、もう。溢しちゃ駄目でしょ』
「利き手じゃない方の手を使うのって難しいよねぇ」
臨也が骨折して数日。
最初の頃は腕を触らないように包帯を巻いたり、熱で寝込んでたりと大変だったのだが少しずつ熱も下がり、
そして私の腕も上がり、今では彼が寝ていても包帯が巻けるようになった。そうして戻ってきた[日常]だが、一つ問題があり、利き腕では無い為ご飯が上手く食べられない、という事だ。
本人は自分で食べる、と言うのだが、やはりと言うべきか箸を落としてしまい、結局私がご飯をスプーンであげなければいけなくなる。
『ほら、あーん』
「……どうしても食べないと駄目かい?」
『最近全然食べてないでしょ。少しぐらい食べて』
そんな生活になってから、臨也はあまりご飯を食べなくなってしまい、少し自分でやってみて食べられなかったら[もう要らない]と言って私にくっつき、甘える仕草を見せた。
最初は体調が悪いのかと思ったのだが、段々と臨也の心に気付き、食べられないのならば無理して食べさせないようにしている。
「……この俺が、君に介護して貰わないとご飯一つまともに食べられないなんてねぇ」
『介護、じゃなくて看病でしょ。風邪引いた時はあんなに食べさせてって言うのに……』
「あれとこれとは話は別だろう?これがどこをどう見たら介護じゃない、って言えるの?」
既に食べる気もなくなったのか、私にくっついてきては文句のようなものを吐き出し、ストレスが溜まってきているようだ。
子供達に対しても、ただ寂しそうに笑うだけであり、あまり積極的に遊ぶ事もしなくなってしまった。
―――腕が折れただけなのに……。
ただ、ギブスをはめているだけなのに―――たったそれだけなのに何だか家の雰囲気が悪くなってしまい、
子供達も元気が無く、前のように[とーと、あそぼー?]と興奮したように走り回ったりする事もない。
『看病だよ、心のね?一緒に居てあげるから、いつもの笑った顔を見せてください』
「…………」
『臨也が立ち上がれない時は私が支えてあげる。私が引っ張ってあげる。ずっとずっと臨也の傍にいるから、ね?』
心まで弱ってしまった臨也に必要なのはご飯を食べさせる事ではなく―――傍に居て支えてあげる事。引っ張って[大丈夫]と笑ってあげる事。
それが一番なのではないかと思い、臨也を包むようにして抱きしめれば小さな声でお礼を言ってくれた。