折原家

□謹賀新年
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『そんなに嫌なら休んじゃえば?』

「休みたいのは山々なんだけど、情報屋っていうのは信頼が一番だからさ。一日休んで目的の情報は得られませんでした、なんて、

そんな事になれば数年築き上げた信用もその一回の行動で海の藻屑として消えちゃうわけ。

人に会って情報を集めるわけじゃないし、ファイルの整理をするわけじゃないから波江さんも必要ないし、午前中には終わる事だから終わったらどこか出かけようか」

『初詣とか……いいんじゃない?』


さら、と[やめちゃえ]という意味を込めて言ってみたのだが、彼の答えはいつも通りであり、解っていたのでそれ以上は何も言わずに午後からの予定を考えた。

本当ならせっかく午後から何も無い日なのでゆっくりと子供達と遊んでいたいのだが、今日は元旦だ。1年の健康祈願を願ってもいいかもしれない。


「人が多そうだし、子供達が大変じゃない?」

『でも、せっかく元旦なんだし……お正月らしい事がしたい』

「……それもそうだ。お雑煮と御節なんて飽き飽きしてた所なんだよねぇ」

『じゃあ、臨也の御節とお雑煮は無しね。あ、でも無しは可哀想だし、1個にしておくね?』

「悪かったって。だからせめて2つにしてよ」

『1つね?』

「…………」


――――――――……

数十分後

愛子視点


「マーマー?とーと、おもち1つしかないよー?」

「パパ、おなかいたいいたいー?」


[飽き飽きしてた]という発言によって私は有無を言わさず、彼のお椀の中には小さなお餅が1つぽつん、と浮いているだけであり、ほぼ味噌汁と白菜が入っているだけのものだ。

それを二人は臨也の体調が悪いのかと心配しており、彼の隣にやってきて[いたいいたいのとんでけー]と呪文のように唱えている。

無言のまま味噌汁を啜っていた臨也であったが、子供達のそんな様子に癒されたようで優しく頭を撫でていた。


「ママ、味噌汁だけじゃなくてお餅も欲しいんだけど」

『……お雑煮と御節は飽きたんじゃないの?』

「無性に食べたくなったんだよ。だからさ、ね?』


何が[ね?]なのか、よく分からなかったが彼をからかい続けていればいつかは本気で不機嫌になりかねないので

[はいはい]と笑ってお椀を受け取って子供達と同じぐらいの量のお雑煮を入れて手渡す。


「いくら俺が食べないからって子供達と同じ量じゃなくてもいいんだよ?」

『それを食べ終わったら言って下さい』

「……酷いなぁ。お餅がいっぱい入ったお雑煮ぐらい食べさせてくれたっていいと思わない?」

「とーと、おもちいっぱーい!」

「あたしより、おもちいっぱいあるー!」

「……そう。ママはやっぱり俺のママだ」


いくら子供達と同じ量だからと言って、お餅の量まで同じまでとは言っていない。

子供達の[いいなぁ]という目線と言葉で理解したようで薄く微笑むと、美味しそうにお餅を伸ばし、[やっぱりお雑煮だよねぇ]と先程の言葉をなかった事にする臨也。
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