折原家
□初雪
2ページ/8ページ
『んぅ、初雪ぃ……?ああ、そんな事言ってたっけ……』
「愛子、寒いんだから布団開けっ放しにしないでくれる……?」
子供達は階段の上から白いものが降っているのを見て元気に[はちゅゆきー!]と楽しそうだが、
大人になればただ寒いだけであり、臨也なんて興味無さそうな顔をして文句を吐き出しているだけである。
「今日は一段と冷えるねぇ。愛子、ちょっと暖房入れてきてよ」
『自分で行けばいいじゃん……』
「寒すぎて正直、動きたくない」
『…………』
寒さで脳は簡単に覚醒するが、布団の外はやはり寒いわけで。臨也は肩まですっぽりと布団に包まり、指も出したくないと言わんばかりに言葉だけで指示を出す。
私だって外に出るなんて嫌だ。子供達は[おなかすいたー]と自分達の欲求に忠実だが、私としては食欲よりも暖かい布団の中でぬくぬくしていたいのだ。
―――子供達に行かせるわけには……いかないよね、やっぱり。
もう少し大きくなったなら[暖房付けてきて]と私の代わりに行かせる事もできるのだが、流石にまだ5歳の子供に行かせるのは正直怖いので仕方なく温かい布団から寒い外へと足を出す。
『―――……っ、さっぶ……』
「早く付けて来てよ。俺だって寒いんだからさ」
「ママー、おなかすいたー!」
「おにぎりつくるー!」
臨也の言葉にイラ、としたのは内緒にしておこう。
彼の朝ご飯には嫌いなものをおにぎりにして出して復讐してやる―――そんな考えをしながら寝室の暖房のスイッチを入れ、
臨也が[1階もよろしくね]とニコやかに、そして冬の寒さなんて感じさせない爽やかな笑みを浮かべて言葉を吐き出すので
子供達と一緒に[ばーか]と呟けば、苦笑を浮かべつつも布団から出ようとしない臨也。
―――覚えてろよ、馬鹿臨也……!
―――――――……
数十分後
愛子視点
「おにぎり、いっぱいできたー!」
「とーと、これたべてー!」
朝ご飯におにぎりはどうかと思うのだが、二人は遠足に行く気分でおにぎりを作りたそうにしていたのと、復讐する為にも好都合なので三人でご飯を丸めて思い思いのおにぎりを作った。
二人は冷蔵庫にあった鮭や昆布など案外普通のおにぎりを作っており、私だけが鮭の中にわさびを入れたりと復讐する気満々なおにぎりを制作し、彼の前に朝ごはんとして出す。
子供達にわさび入りのおにぎりなんて食べさせられないので[ママのはパパにあげてね]というと不思議そうな顔をしながらも満面の笑みを浮かべて父親に食べて食べて、と言わんばかりだ。
「二人が作ったにしてはおにぎりが綺麗すぎるねぇ。……君が作ったの?目的は俺に復讐する為、かな?」
『……それはどうかな』
「……まあ、頂くとするよ。……。っ……何、入れたの……?」
臨也の言葉に僅かに反応する私。
冷や汗を掻きながら言葉を紡いだが、彼はそれ以上何も言わずにわさび入りの鮭おにぎりを手に取って口に頬張り―――苦しそうに口元を押さえている。
―――冬の寒さを思い知れ……っ!
スリッパを履いているにも関わらず、床に足を付けて歩いているような冷たさがあり、息を吐き出せば白い息が空中に浮かんでは霧散されていく。
反対に臨也は朝ごはんになるまで温かくなった寝室で、暖かい布団に包まって二度寝をしていたのだろう。そう考えるとイライラも増幅されるというものだ。