折原家
□秋の風物詩
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「おいしー!」
「クッキーおいしー!ママもはんぶんこ、するー?」
『ママはいいから二人で仲良く食べなきゃ駄目だよ』
「「うん!」」
口や手にクッキーの粉をベタベタにくっつけて笑う二人の子供に苦笑を浮かべつつも、自分の分のコーヒーに口を付ける。
こんなのんびりとした時間を過ごせるなんて彼と結婚する前は解らなかった事だ。
それに学校を卒業し、あれよあれよという間に結婚して、子供を産んで主婦、という形に収まってしまったが、
結婚する前から家事、というか手伝いみたいな事はやっていたのでそこまで苦になる事は無く、学校生活の時間はゆっくりしてる事が多くなった。
それに父親である男―――折原臨也との時間も多くなり、話す事も前より増えたような気がする。
前は忙しくて[また後でね]と言ったり、軽く流す程度だった話を真剣に聞いてみたり、彼には可愛そうな事ばかりしていたように感じる。
それでも、彼も私も愛想付かずにここまでの道のりをやってこられたのはやはり、どちらも一歩も引けない所にいたからなんじゃないか、と思う。
私には臨也、という居場所しかない。
それは今も昔も変わらず、友達がたくさん居ても、私の事を理解し、大切にしてくれる人が居てもそれは変わらない。
臨也はよく解らないが、うまく立ち回ればたくさんの人に惹かれる筈だったのを自分からそんな未来を壊し、一人となった。
周りから恐れられ、憎まれる存在となった。
馬鹿だな、とは思うがそれが折原臨也という人間の一つの生き方なのであれば、私はそれを否定しないし、彼の隣に誰も居ないのであれば私が傍に立って彼を支えてあげたい。
陳腐だとは思うが、何十回これから先、死んで生き返り、という夢みたいな話があったとしても―――私は彼の傍で一緒に笑っていたい。
一般人でいい、通りすがりでもいい―――それでも彼と知り合い、そしてどこかの枠に収まれるのであれば、それだけでいいのだ。
―――恥ずかしい事、考えてる……。
―――……。だけど、これが本音だから仕方ないよね。
「マーマー、おやつたべたー!」
「あたしもー!ママ―ジュース、のんでいー?」
物思いに耽っていると二人が空のお皿を私に見せてきて、食べ終わった事を知らせる。
筑紫が空のコップだと思われるコップをtテーブルに置いて台所へと向かい、重たいペットボトルを運んできてついでくれ、と言わんばかりだ。
前に波江さんから聞いた事なのだが、自分からジュースを注ごうとしたが、重たすぎて落としそうになったらしく[危ない事はさせるな]と言われてしまった。
そんなつもりはなかった―――とは思ったが、ジュースを溢し、片付けるのは私なので重たいペットボトルは極力二人には持ってもらわないようにしなければならない。
それでも二人は自分の飲みたいジュースを重たいにも関わらず、私や臨也、波江さんの前に持ってくるのだから注意しようがない。
「はいはい、紫苑はいらないの?』
「ぼくも!ぼくも!」
「あたしがいちばんー!」
『はいはい』
重たいペットボトルの蓋を開けると今回はコーラらしく、炭酸が抜ける音とコーラの匂いが注ぎ口から漂ってくる。
それを二人のコップに注いでやれば、嬉しそうに眺め、[早く早く]と急かすようにコップを両手で押さえている。