折原家
□秋の風物詩
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<秋の風物詩>
9月下旬 折原臨也のマンション
愛子視点
「ママー!うんどーかい!うんどーかい!」
「ぼく、かけっこでいちばんになる!」
保育園から帰ってきた二人は、担任の先生に貰ったであろうプリントを自慢げに持ってきては私に渡してくれた。
最近は夏の暑さがやっと落ち着き、朝晩などは肌寒い、とまではいかないが涼しい風が吹き、とても過ごしやすくなってきた。
それでもまだまだ日中は暑い時が殆どであり、早く涼しくならないかな、なんて思ったりするこの頃。
二人がくれたプリントには[運動会]の文字が書かれており、もうそんな時期か、と妙に納得する。
迎えに行った時にも先生達がバタバタ、と忙しそうに準備に駆け回っている姿を不思議そうに眺めたのが何だか恥ずかしい。
『二人は何に出るの?』
「えーとね、えーとね……かけっことーたまいれとーボールコロコロするの!」
「ぼくもコロコロするー!」
『??』
二人の説明だけでは何が何なのか解らないので悪いが、プリントで確認するとかけっこや玉入れ、ダンスや綱引き、
親子で参加するものなど幅広いものがあるらしく、保育園の頃から運動会、なんてあるんだなぁなんて感心してしまった。
何も知らない私なのでどういう感じなのかも場所取りなどどうすればいいのか解らず、運動会の日が少しだけ不安に思った。
「ママもいっしょにかけっこするのー!」
「ぼくといっしょなの!ママはぼくとかけっこするの!」
「あたしだよー!ママといっしょにかけっこするのあたしー!」
何だか恒例となってしまったこの喧嘩だが、結局はどちらかが父親と一緒にかけっこする事になってしまう。
それでも父親本人がこの場に居ない為、喧嘩を止めるのは私の役目となるのだが。
『はいはい、それはまた後で決めようね。早く手を洗わないとお腹痛い痛いになっちゃうよ?』
「やー!いたいいたいのやー!」
「いやいや!はやくて、あらうー!」
保育園から帰ってきてからすぐに鞄からプリントを渡してきた為、まだ手を洗っていないので喧嘩を止める為の道具として使えば、
予想通り二人は千切れるんではないかというぐらいに首を振り、慌てて走って手を洗いに行く二人。
慌てる二人の後姿はとても可愛らしく、例えるならばペンギンが走っているような感じだ。
てちてちてち、と大人とは違う、子供特有の走りがとても可愛らしく、小さく笑みを浮かべつつ、二人のおやつを用意する。
「てーあらったー!」
「ぼくもあらったー!」
両手を広げて見せてくる二人の4本の腕を眺め、[よくできました]と頭を撫でればくすぐったそうに目を細め、[おやつー!]と目の前にあるクッキーに目を輝かせた。