折原家

□昔の出来事
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何でもやってあげてしまいたくなるのは私の悪い癖だ。

二人が一生懸命やっていると[大丈夫かな、できるかな]なんて一人でハラハラしていたり、

掴まり立ちをし、グラグラと揺れるどちらか一人を見ていると立たなくていいよ、なんて言いたくなる。


それでも子供が成長する為に必要なものなので、親はそういう事には関与できない。

大きくなった時に両親にやってもらうのが当たり前、これができないのは両親が悪いからだ―――なんて言われたら泣くに泣けなくなる。

だから、後悔しない為に二人の様子を注意深く見ていたのだが―――今回だけは気付けなかった。もし、臨也に言われなければ私は岸谷さんの家に何十回も電話をしていたと思う。


「そうだね。俺もホッとしたよ。二人に怪我がないようだし、最近は俺の事も解るようになったみたいだ」

『パーパーって?』


笑いながら言えば臨也は少しだけ睨み付けるようにこちらを見つめるが、まんざらでもないような表情をしている。

いつか[ママ]、[パパ]と呼ばれる時が来るのだろうか。まだ1歳になったばかりの我が子の未来を想像して愛しく思った。


『ねえ、臨也は二人になんて呼んでもらう?』

「そうだなぁ……俺はやっぱり[パパ]、[ママ]がいいかな、って思うんだけど愛子はどう?」

『うーん……私もやっぱり[パパ]、[ママ]、かなぁ……』

「俺と君が[パパ]、[ママ]なんて呼ばれる時が来るのかと思うと不思議な気分だよ。今は俺達の事を認識するぐらいなのに」


二人は多分、だけど私達の事は解っているのだと思う。

それに[あー、うー]と私を呼ぶように手を叩いたり、服を引っ張ったりしてくるのでもしかして私の事かな?なんて口元をニヤつかせながら二人の相手をする。

臨也の事も解っているようで彼の事を指さしながらきゃっきゃ、と喜んでいたり、[むぅあー!]と何を言っているのか解らないが、二人に繋がるものがあるらしく会話しているようにも見えた。


赤ん坊や幼児というのは私達が思っている以上に頭が良くなんでも吸収するので、前に犬の本を見せながらまだ早いかな、

とは思ったが[ワンワンだよー]と何度も教えていたらその後に[わーわん]と言えるようになったのは驚いた。


「わーわん!」

「わーわん!」


何が楽しいのか、それだけで会話している二人を見ると首を傾げてしまうが、楽しそうなので良しとする。

臨也も言葉を覚えてくれる事が楽しいのか、[これはね、ブーブーって言うんだよ]なんて新宿の折原臨也、

と言われる情報屋が[ブーブー]と我が子に教えているんだから最初は笑ってしまったものだ。


「酷いなぁ。俺だって子供が可愛くないわけじゃないんだ。むしろ父親としての責任を果たしてるんだから褒めて欲しいぐらいだよ」

『はいはい、凄い凄い』


棒読みのように口先だけの言葉に臨也は[心が籠ってない]と不機嫌そうだったが、[むーむー]と教えた通りの言葉を発しようとしている二人の姿を見て微笑んだものだ。


「二人は俺達の心が解るのかな?」

『どうなんだろう……』


喧嘩しそうになるといつも二人のどちらかが泣き出し、慌てて喧嘩はやめて駆け寄ると泣き止むのだ。

本当に彼の言った通り、私達の心が読めて、どこか険悪の雰囲気になるのが解るのかもしれない。
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